向里祐香さんと新帆ゆきさんは全く違うエネルギーを持っていた

――勝彦というキャラクターはどう捉えましたか。

新原 原作を読んだときに、超簡単に言えば「高校生らしい」と思ったんですけど、それでいて勝彦という人間はいそうでいない、稀有な存在だなと感じました。人を動かす原動力、外に発するエネルギーを持っているはずなのに、パッと彼を見ると、何も動かない。さざ波というか、波風を立たせずに場の空気に合わせるタイプなのに、気づいたら周りの人が動くという静と動のバランスに惹かれました。

物事に対して流動的というか、その場の流れで自分が何を思うかみたいなところが彼の本質で、演じる上でも根幹になってくると思いました。でも、そんなに僕と年も離れていないし、「この子はこういう子だ」というのを決めつけないでいこうと。段取りとかでも、ここはこう動くべきだとか、これがしたい、あれがしたいというのをあんまり決めつけずに、その場の流れに合わせてやっていこうという、あまり作り込まないスタイルを意識しました。

――どこか勝彦は飄々としているというか、十代にしては達観していますよね。

新原 冷めているんですよね。でも“何か”が見つかっていないから、冷めているように見えるだけだったりもする。僕はやりたいことが明確にあるタイプですが、勝彦の中ではやりたいことが見つからない。見つけたいと思っているのかも分からない、それでも別にいいかという、ある種の向上心のなさがある。それは悪い意味じゃなくて、そういう人がいてもいいと思いますし、僕とはかけ離れた存在だからこそ、勝彦が好きでしたね。その場の空気感に身を任せて、ゆらゆらしている感じは、新原泰佑としては理解しがたいけど、勝彦は魅力に溢れた人間です。

――共演者についてもお聞かせください。ひょんなことから下宿人として同居することになる高校教師・伊沢学を演じるのは向里祐香さんです。

新原 向里さんは憑依型です。正直、あんなにお綺麗な方が伊沢学になれるのかと最初は思ったんです。今回が初めましてだったので、事前にSNSなどをチェックさせていただいたのですが、伊沢先生の面影もないように感じました。ところが撮影が始まると、そこに伊沢先生がいるんですよね。役に陶酔していく力が強い人で、一緒にお芝居をしていて気持ちよかったです。エネルギーを発してくれるので、こっちも打ち返しやすくて楽しかったです。

――勝彦の同級生であり恋人でもある玲子を演じたのは新帆ゆきさん。

新原 新帆さんは映画初出演で、いろいろ戸惑うことも多かったと思いますが、すごく頑張り屋さん。一緒に台本を読んで、「これはこうかな」と一緒に試して。僕とのインティマシーシーンが多かったので、インティマシー・コーディネーターの西山ももこさん、小南監督の4人でも深く話し合いました。玲子は伊沢先生と正反対のタイプで、角の立ったエネルギーをぶつけるんじゃなくて刺してくる。そこを上手く表現されているなと。玲子に関して、勝彦は打ち返す必要もないので、玲子に刺されて、それを受ける。もしくは勝彦が与えて、玲子がそっぽ向く。そういった一方通行の関係を作ればよかったのですが、新帆さんの尖り具合が半端じゃなかった。こんなにエネルギッシュなお芝居は誰にでも出せるものじゃないと感じて、刺激的でした。向里さん、新帆さん、それぞれ全く違うエネルギーを持っていて、お二人といろんなシーンを重ねられて、すごく勉強になりました。