キャストのみんなが、あの手この手で存在感を出していった
――八木監督の演出はいかがでしたか。
芋生 演出は本当に控えめなんですが、納得がいかないときは表情に出るので、すぐに分かります(笑)。あとテンションが上がると、無駄に走り回るんですよ。直線距離なのに、ちょっとコーナーを回ってくるみたいな感じで、全身から気持ちがあふれ出ていました。
――カット割りや画角に独特さを感じました。
芋生 カメラの位置は近いんですが、あまり温度感が存在していないというか。おそらく八木さんとカメラマンの遠藤匠さんは話さずとも気持ちがシンクロしていたと思うんですが、人物を追っていくというよりも、そこにすっと存在しているようなカメラワークなんです。役者としてはカメラを意識せずにいられるからいいなと思いつつも、ただ存在しているだけではなく、役同士の化学反応と空気感で存在感を出していくようなところがありました。
――翠というキャラクターはどのように捉えましたか。
芋生 いろいろと抱えているものはあるんですが、それを表に出して誰かに助けを求めることに対して、諦めているような子だなと思いました。きっと小さい頃から、「どうせ私なんて」という部分があるんだろうなと。ただ修⼆だけは、周りにいる人たちには言えないことでも、言ってもいいかなと思える存在だなと脚本から感じ取って。そういう修二との時間、関係性を大切にしたいなと思いました。
――修二も翠もいろんなことを諦めている似た者同士ですよね。
芋生 もう一生会わないかもしれないけど、気付いたら涙ながらに、いろいろ打ち明けている。そういう人って現実にもいますよね。
――翠が全てのことに絶望するきっかけになったシーンが痛々しくて強烈に印象に残っています。
芋生 画面に映るのは私だけで、他にいたのは監督とカメラマンさんぐらい。照明さんも準備が終わったらすーっと離れて、長回しで撮影しました。誰にもバレないように翠がやっている行為なので、できる限り一人のほうがいいなというのがあって、そういう環境にしてもらえたのはありがたかったです。
――現場での樹さんの印象はいかがでしたか?
芋生 撮影中も常にプロデューサーとしての動きをしていて、キャストの管理なども担当していました。一見するとクールにこなしていたのですが、きっと大変だったと思います。なので一緒にお芝居をしている時間は、会話の延長線上から入るような感じで、ナチュラルに過ごせたらいいなと思っていました。もともと樹くんは気さくで気遣いのある方なのですが、修二は真逆というか、無鉄砲なことを言う役だったので、本人とのギャップがあって面白かったです。
――カメラが回ると変わるということでしょうか?
芋生 そうですね。柔らかくて気遣いのできる人から、瞬時にすり減っているような、荒んだような部分が出てくるので不思議でした。八木さんとの信頼関係ができあがっているからこそ、安心して樹くんも、修二としていられるのもあったのかなと思います。
――同世代のキャスト・スタッフとのお仕事はいかがでしたか。
芋生 同世代というのもあって、自分が引っ張るというよりは、一緒に青春するみたいな。一緒に映画作りする時間を楽しむことができました。
――完成した作品をご覧になった感想はいかがでしたか。
芋生 自主制作映画っぽさもあるんですが、一つひとつが丁寧に作られていて、観たことのない映画になっているなとワクワクしましたし、観終わった後はニヤニヤしちゃいました(笑)。今の若い子たちの貧困や社会的な断絶を切実に描いているんだけど、そこにちゃんとユーモアがあって、上手くバランスを取っているなと思いました。もっと前面的に社会問題を打ち出してもいいんだろうけど、ユーモアがあることで希望も感じられるんですよね。