ファンとの信頼関係から生まれたドキュメンタリー映画

――『純烈ドキュメンタリー 死ぬまで推すのか』、とんでもなく面白かったです!初の武道館公演『純烈魂』に密着した舞台裏も感動的でしたが、様々な事情を抱えたファンのドキュメンタリーも衝撃的でした。

酒井一圭(以下、酒井) 僕らも、こんな仕上がりになるとは思ってなくて。もともとはスペースシャワーTVのチームが、どうして演歌・歌謡曲の純烈に興味があるのかというところから番組制作が始まって。そこから徐々にスタッフと仲良くなって、1回目の放送がドキュメンタリー、2回目は武道館の裏側。番組だけで終わるかと思いきや、それが合体して、新たなネタが加わったのが今回の映画です。

――当初、密着取材のゴールはなかったんですか?

酒井 特になかったです。武道館の後も撮ってるとか知らんかったし、完パケを見てびっくり。

――ファンの方に密着していたのは知っていたんですか。

酒井 なんとなく追っかけてるというのは聞いていたけど、この半年間で、旦那が死んだとか、子どもが出て行ったとか、むちゃくちゃやん、みたいな(笑)。そんなことが起こっているとは、いざ知らず、僕らは「今日もコンサートに来てくれてはるわ」と普通に歌っていたんで、人生いろんなことあんねんなと興味深く見させてもらいました。

――どうやって密着するファンの方を決めていったんですかね。

酒井 おそらく番組に協力できる人を募って、面接もしたはずです。もちろん知っているファンばかりですが、全国を追いかけ倒しているというより、この地域に行ったら来てくださるという人たちが多かったですね。

――よく、あんなに根掘り葉掘り話を聞いて、自宅まで見せましたよね。

酒井 制作スタッフがイカれているんですよ(笑)。この映画の中では「昔の純烈のほうがおもろかった」って言ってた方が、一番ファン歴が長いのかな。

――推しのグループに、昔のほうが良かったとぶっちゃけられるのもインパクトがありました。

白川裕二郎(以下、白川) さすがに仲間が、「売れていくと守るものがあるから」とフォローしていましたけどね(笑)。

酒井 お互いに信頼関係があるからこその言葉ですよ。僕らも昔のほうがめちゃくちゃやってた自覚があるから。

――めちゃくちゃだったと言うと?

酒井 やったらダメだっていうこともやらせろと。要は制止を振り切るんですよね。たとえば、「これをやったら、ここのショッピングセンターに二度と呼ばれなくなる」と言われて、「うん分かった」と答えるんだけど、スタッフは僕の目を見て、「やるんやな。謝る準備をしとこう」みたいな(笑)。ショッピングセンター側から、「2階、3階に行かないでください」と言われても、「そんなもん、なんで決められなあかんねん。どうせ二度と呼ばれへんやったら、ここで死んだらぁ!」と常にそういうマインドだから、そういうことの連続。そういう中で熱狂が生まれて、お風呂屋さん(スーパー銭湯)から紅白に行く。それって前代未聞じゃないですか。そこの面白さっていうのは、自分たちもやりながら感じていました。紅白に出たらボクシングと一緒で、どうしても防衛戦に入ってしまう。チャンピオンになる瞬間が一番おもろいんですよ。もちろん次から次へと対戦相手が現れるので、お客さんは楽しいですが、全く無名の“はじめの一歩”が、河川敷から上がっていくのが一番おもろいからね。

――伸し上がっていく手段がロックとかじゃなく、ムード歌謡なのもいいですよね。

白川 まさかムード歌謡で、ここまでいくとは普通思わないですよね。

――結成当時から紅白出場という目標は明確にあったんですか。

酒井 ウルトラ明確。口説き文句が「紅白に出て親孝行しようぜ」だから。

白川 リーダーの言葉を信じる信じないじゃなくて、他のメンバーは紅白の出方も分からないから、「紅白って目指したら出られるもんなんだ」と漠然と思っていました。実際は簡単なものじゃなかったけど、無知で何も分からなかったから突っ込めたところはあります。

――そもそも酒井さん自身、ムード歌謡はお好きだったんですか。

酒井 全然(笑)。ただ映画の撮影中に事故で入院していたとき、何度も夢に前川清さんが出てきただけ。特に内山田洋とクールファイブも聴いてなかったしね。小さい頃、ジュリー(沢田研二)目当てに歌番組を見てたら、クールファイブも出ていたのを覚えている程度。それなのに毎日、夢に出てきて、これはムード歌謡をやれってことなのかなと。よくよく分析すると、これは紅白に出れるぞ。じゃないと夢に出てくる訳がない。人生一回きりだし、夢に従ってやってみようと思ったんです。それでメンバーも巻き込んでいったんですが、それって今こうなったから言えることで。僕の夢から始まった純烈を、これだけ熱狂的に応援していただいているのは、ずっと絵本の物語みたいな話で。僕としては、わらしべ長者をやっているだけなんです。

――だけってことはないですけど(笑)。

酒井 ほんまに最初は誰もいなかったから。僕が考えて、一人ずつ誘っていって、今の純烈がある。漫画でも「嘘つけ!」で終わっちゃうストーリー展開ですよ(笑)。