オファーをいただいたときは主演と知らなかった
――『オオムタアツシの青春』は筧さんにとって映画初主演となります。どのような経緯でオファーがあったのでしょうか。
筧美和子(以下、筧) 瀬木直貴監督が主演俳優を探しているときに、奥様が私のYouTubeチャンネルを見てくださっていたみたいで、推薦してくださったそうです。瀬木監督も過去に私の出演映画を観てくださっていて、ご夫婦で話し合ってオファーしてくださったとお聞きしました。まさかYouTubeがきっかけになるなんてと驚きでした。ただ、オファーをいただいたときは主演と知らなかったんです。
――どういうことですか?
筧 瀬木監督の過去の作品を拝見しながら撮影を心待ちにしていたのですが、クランクインの2、3カ月前に届いた企画書と台本を何気なく見ると、そこに私が主演と書かれていて(笑)。伝達ミスだったのか、あえて知らせなかったのかは分からないのですが……。これは大変だと焦ったのを覚えています。
――主演のプレッシャーはありましたか?
筧 主演に選んでいただけたのは純粋にうれしかったんですが、特に主演だからこうしようとかは深く考えませんでした。今の私には真摯に役に向き合うことしかできませんからね。それに共演者の方々も心強い人たちだったので、いつもと変わらずのスタンスで臨ませていただきました。
――クランクインする前に事前準備などはしましたか?
筧 私が演じた五十嵐亜美はパティシエなので、基本的なお菓子作りの動きを練習しました。あと舞台が福岡県大牟田市なので、普段の生活から博多弁のセリフを交えるようにして馴染ませていきました。ふとした独り言の語尾に博多弁が出てきたときはうれしかったです。そうした役作りの期間が亜美の内面を深掘りできる時間でした。
――どのように博多弁を覚えていったのでしょう?
筧 録音をしていただいた音声を聞き込んで、言葉に馴染ませていきました。共演の林田麻里さんが大牟田市出身で、一度読み合わせもしていただいたんですが、連絡先も交換していたので分からないことがあれば聞いて、あとは現場で直してもらいました。
――博多弁を覚えるのは大変でしたか?
筧 自分なりにチャレンジしてみて、間違っていたら指摘していただいて。何度もトライして、自分のものにできる作業は楽しかったです。カラオケで好きな歌を歌いたいから完璧になるまで練習するみたいな、そんな気分でした(笑)。細かいところもコツをつかめると、オリジナリティーが出せるんですよね。
――最初に脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?
筧 メインキャラクターの4人がデコボコしているなというのが第一印象でした。年齢も置かれている環境も全然違っていて、普通なら一緒にいないようなタイプの人たちが集まって、短い時間かもしれないけれど、寄り添い合って生きている姿は心が温まって、それがこの映画を好きになったポイントでした。誰しもつまずいたり、問題を抱えたりという経験があると思いますが、そうした過去も含めて、どう生きていくのかに向き合っているんですよね。明確な答えを提示している訳ではないけど、いろいろな経験をした人たちだからこそ、折り合いがつかないことに対して何かのヒントがある。励みになるメッセージがあって、そこも魅力だなと思いました。