撮影中は髙橋海人さんならどうするかと考えることが多かった

――大人チームの芳根京子さん、髙橋海人さんとの交流はありましたか。

武市 芳根さんが、僕と西川さんのリハーサルに来てくださったんです。僕が演技で悩んでいた時に、「もっと大きく、最大限に演技をしていい。やり過ぎだったら監督が止めてくれるよ」とアドバイスをいただいて、ありがたかったです。真剣に見ていただけたので、いつも以上に緊張しましたが……。髙橋さんは、大人チームが先に撮影していたので、「喫茶 異邦人」でのシーンを見学させていただきました。

――異邦人は映画で何度も出てくる重要な舞台です。

武市 髙橋さん演じる15年後のまなみは余裕があって、そこにつなげられるようにしたいなと感じました。髙橋さんに意識されていることを聞いたら、監督と同じく「まなみらしさ」を第一に考えていらっしゃって。撮影の時は、「髙橋さんならどうするか」というのも考えていました。

――髙橋さんと話す時も緊張しましたか。

武市 ずっと尊敬していた方なので、すごく緊張しました。心臓がドクドクして、固まってしまって、あまりしゃべれていないんですけどね(笑)。撮影期間中に2、3回お会いしたんですが、そのたびにリセットされて緊張しちゃうんです。

――撮影で特に苦労したシーンは?

武市 二人が入れ替わってから初めて異邦人で会うシーンです。オーディションで台本を読んだ時も、そのシーンだったのですが、二人にとって大切なやり取りなので何回もリハーサルをしました。まなみも陸もどうしていいか分からない状況だけど、陸のほうが焦っているから、まなみはオーバー気味に元気にふるまう。そのオーバー加減と、まなみの本心をどうやって演じるかが難しかったです。

――あの喫茶店は実在する場所なんですか。

武市 普段は営業している高崎の喫茶店です。初めて入った時、原作そのままの空間で「異邦人だ!」って思いました。店主の方も含めて、すごくいい空気感でした。

――撮影は全て高崎で行ったんですか。

武市 はい。2週間、高崎にいました。こんなに長く家を離れたのは初めてで、一人暮らしを始めたみたいな感覚でした。スタッフのみなさんに助けていただきながらでしたけど、初めて親元を離れる経験は新鮮でした。

――坂下監督の演出はいかがでしたか。

武市 演技のことはもちろん、まなみの心の中についても丁寧にアドバイスをいただきました。初めての現場でしたが心が温かくなって、ずっと安心感がありました。

――撮影が進むにつれて緊張はほぐれましたか。

武市 撮影当初から坂下監督に「緊張をなくしてもダメ。緊張と友達になるように」と言われていたのもあって、最後まで良い緊張感があって、緊張と友達になれました(笑)。2週間は長いようで短くて、あっという間の撮影期間でした。

――完成した作品を観た時は、どんな感想を持ちましたか。

武市 自分が撮影に携わった映画をスクリーンで観る感動と、自分がスクリーンで動いていることの感動と、両方で感極まって、冷静には観られなかったです。

――今回の映画を通してご自身で成長を感じることはありますか。

武市 今まで台本を読んでも、セリフで言ったことがその人の心情だと思っていました。でも、まなみは表の顔と心情が違うところがあって、心の奥まで考えることを意識できるようになったのは成長だと思います。