今年、合宿免許で仲良くなった仲間との思い出

――一色さんは出ずっぱりですが、稽古場の雰囲気はいかがですか。

一色 気づくと、水を飲んでいないんじゃないか、どこで水を飲むんだろうと思うくらい出ずっぱりでマラソンみたいです。ストイックな作品ではあるのですが、石黒 賢さん、一路真輝さん、山路和弘さんと三者三様の先輩方が、ふっと癒してくださるんです。僕と小石川桃子ちゃんは、役柄的にハードな面があるので、ぐっと考えちゃったりするんですけど、お三方の発言や佇まいで現場がリセットされる瞬間があって、そこは生意気ながら助かっています。

――フランツの働くキオスクの店主であり、母の知人であるオットー・トゥルスニエクを演じる石黒さんの印象はいかがですか。

一色 来年還暦を迎えるとは思えないくらい少年のような方で、誰よりも爽やかでチャーミング。トゥルスニエクも頑固さを持ちつつ、どこかチャーミングさがあるので石黒さんと被ります。たとえば、フランツが常連のお客さんに新聞を渡すシーンで、その新聞を間違えて入れてしまう。その時に「違う」とトゥルスニエクが怒ってくれるんですが、その言い方が愛情に満ちていて、フランツのことがかわいくて、心の中で「頑張れ」と思ってくれているのが伝わってくるんです。石黒さんを見ていると、お芝居は人柄だなと改めて思います。

――演出の石丸さんとは何作目のお仕事になるのでしょうか。

一色 作品としては今回が5作目です。最初が『ペール・ギュント』(12)、朗読劇『秋元松代の世界』(20)、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』(21)、舞台『鋼の錬金術師』(23)と、いろんな旅をさせてもらっています。さち子さんとは、どんな作品をやっても面白いですね。先ほどお話しした通り、役者が突っ立っているだけでも心に起こっていることが手に取るように分かって、言語化できる方なんです。だからこそ全幅の信頼を置きつつ、そこに甘えたくないという思いもあります。今回うれしかったのは、乗る車が見つかった時に、「洋平、今日いいね」と言ってくださって。自分が「行けるかも」と思った感覚と、さち子さんが「いいね」と思った感覚が合致したんです。テイクとテイクの合間などに、「今やっていることは間違っていないから、そのまま行って」と教官のように背中を押してくれるのも心強いです。

――ちなみに、このタイミングで運転免許を取られた理由は?

一色 実家が鎌倉市の山の上にあって、近くのコンビニに行くにも山を下りなきゃいけないような場所なんです。今は母がとても運転が上手なので問題ないのですが、この先、両親が具合悪くなった時などに、車を出せる人がいないと、山の上で途方に暮れるなと思って取ることにしました。

――実際に運転はしているんですか。

一色 まだ両親は乗せていないんですが、先日、俳優仲間を乗せて海ほたるまでドライブしました。あと、ありがたいことにマネージャーさんがロケ帰りに運転をさせてくれるんです。路上は経験を積めていますが、まだまだ駐車場は難しいですね。

――免許取得はスムーズでしたか。

一色 一発合格でした。2週間の合宿免許で取得したんですが、その翌々日にロンドンに行く予定を入れてしまって、結果的に一発合格しないとロンドンに行けないと自分を追い込んで頑張りました。でも楽しかったですね。合宿には4人同期がいたんですが、一人はフランツより1歳上の長野県から来た角刈りの男の子で、なぜか軍服みたいなデザインの昭和を感じさせるファッション。バスの運転手になりたいと、ガソリンスタンドのアルバイトで学費を貯めて来たと言っていました。他の二人は、トラック運転手になりたいという夢を持った19歳の女の子と、海外の免許は持っているけど、家族と日本でドライブをしたいという理由で合宿免許に来た日本語が堪能な40代の中国人男性でした。

――ドラマみたいに個性的なメンバーですね。

一色 印象深かったのが、男の子は僕よりも合宿の期間が長いので、一緒の卒業試験ではなかったんです。そしたら僕たちの最終日に、「洋平くんとは今日でお別れだね」とジュースをご馳走してくれたんです。バイトで稼いだお金というのが感慨深くて。

――「洋平くん」と呼ばれていたんですね。

一色 同期ですからね。そのジュースが瓶のバヤリースで、今も空瓶を取っておいて、1輪挿しに使っています。あと卒業試験の時に女の子が緊張していて、「一色さんは舞台に立つ時に、どうやって緊張を紛らせているんですか」と質問されたので、「別に死ぬわけじゃないからと考えたら楽になるよ」と言ったんです。そしたら中国人の男性に「でも車の場合は何かあったら死ぬことがありますから」と言われて、「確かにな」と納得しました(笑)。短い期間でしたが仲良し4人組でした。いずれば運転手になった男の子のバスに乗りたいですね。