今日までそして明日から
20歳の頃、初めてカメラの前で芝居をしてから、もう5年が経とうとしている。
あの時に比べて、私は多くの経験を手にして、現在も芝居を続けている。
当たり前のように毎日が過ぎていくと忘れてしまいがちなのだが、それは沢山の奇跡や出会い、応援してくれる人の存在に恵まれたおかげであり、とても素晴らしいことだ。
私一人では見られなかったはずの素晴らしい景色が沢山ある。
初出演映画『愛なき森で叫べ』のオーディション時、演技未経験で憧れとやる気だけを引っさげて「何者かになりたいんです」と言う私を信じてくださった方々には感謝しても仕切れない。
そして今でも相変わらず、私は自分が何者になれるのかを日々模索している。
それは、舞台役者かもしれないし、脚本家かもしれない。
この度こうやって連載で文章を書かせてもらえたことも、私にとっては新たな道の第一歩だ。
二兎を追う者は一兎をも得ずとは言うが、一芸に秀でるものは多芸に通ずともいうではないか。沢山のことにチャレンジしたい。
『PLAY!PLAY!it’s A PLAY!』『遊ぼう!遊ぼう!だって演技だから!』という言葉がある。
英語で演技を指す PLAYと遊ぶという意味のPLAYをかけたダジャレのような言葉だが、
臆病になりそうな時、この言葉の持つラフさに助けられたことが何度もある。
連載を書いてみて、この遊ぶという精神の大切さは文章を書くことにもつながると思い、この言葉から連載のタイトルを決定した。
真面目に遊ぶことができる大人になりたいという気持ちも込めて。
だって人生はあまりにも長くて、映画のように、終わって欲しいところでハッピーエンドと言うわけにはいかないのだ。生活は続き、ある時急にポックリと終わるかもしれない。容赦ない死は遅かれ早かれ私たちが向かう最終地点なのだ。
しかし、悩みは時に、血を流すよりも痛みを伴うものである。
テレビを見ればみんなが笑っていて、SNSではみんなが誰かと素晴らしい毎日を送っていると感じてしまうだろう。自分だけが重大な問題を抱えていると孤独に思うかもしれない。悩みを口に出すことは怖いし、近年のポジティブ至上主義には疲れてしまう時がある。
しかし、ドストエフスキーは「私が恐れるのはただ一つ、私が私の苦悩に値しない人間になることだ」と言った。
苦悩を放棄することは簡単だが、それに向き合うことでしか問題は解決されないし、悩みや不安というものは人間が生き延びるための生存本能としての問いかけなのだ。
そしてどんな状況下においても、私たちは自分がどんな人間であるか、自分で選択することができる。
苦悩こそ私たちが生きる目的や創造を見出してくれるものであり、決して恐れるものではないという見方すらできるのではないか。
私たちは生まれてから生育の過程で、自分を守ってくれる親から離れた時に、お人形遊びなどの想像力を用いた創造によって寂しさを埋めるようになるらしい。
つまり創造の根本は孤独を源とした想像力から成り立つわけで、芸術や創作というものからは、何か切実な生きる上での如何しようも無い孤独的本質が見えてくる。
だから私は、この先も悩むだろう。不安で眠れないこともあるかもしれない。
しかしそれでも、より創作にあふれた人生を味わうためには、「良薬口に苦し」と受け入れるしかないのだ。
この見出しである「今日までそして明日から」は私が好きな吉田拓郎さんの曲名だ。
繰り返される印象的なフレーズは人生のシンプルさを感じさせ、私はこの曲を聴くたびに、忙しい日常で立ち止まり、人生の温かみを思い出すことができる。
読者の皆様にもぜひ聴いていただきたいので、最後の歌詞を紹介して、今回は締めくくらせていただく。読んでくださって本当にありがとう。
“私は今日まで 生きてみました
そして今 私は思っています
明日からも こうして生きていくだろうと。”(※2)
※1 THE BLUE HEARTS「情熱の薔薇」:作詞・作曲 甲本ヒロト(1990年)
※2 吉田拓郎「今日までそして明日から」:作詞・作曲 吉田拓郎(1971年)
PHOTOGRAPHER:HIROKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,STYLIST:YUUKA YOSHIKAWA
衣装提供
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