スフィアのメンバーは友でありライバルであり仲間であり家族
――声優としての活動も始めて、最初からお仕事は順調だったんですか?
寿 いえ、なかなか難しかったです。最初は子役の過去があるから、「私はできる!」という根拠のない自信があったんですけど、次々とオーディションに落ちる度に、「あれ?違うな。私、たいしたことないじゃん」と自信を失って、挫折しそうになった時期もありました。私も含めてオーディションに合格した同期の4人でライブやイベントに出ることもあって、それが後に「スフィア」という声優ユニットになるんですけど、他の子たちは次々と作品が決まっていって。それを聞いて、「おめでとう!」という気持ちと同時に焦りもあって……。羨ましいなと思いつつも、本当に個性的なメンバーばかりなので、他の3人のように私はなれないなと。すごくリスペクトしていたので、なかなか上手くいかない時期は、3人から吸収する貴重な時間になりました。そのうち、ちょっとずつお仕事が決まるようになってからは、子役時代のお芝居経験を活かした自分のスタイルを少しずつ確立していきました。
――ユニット活動をしていて良かったことは何でしょうか。
寿 仲間ができたのは大きいことですし、現場でも共演者の方から「〇〇ちゃんのいるユニットの子だよね」とか、「4人全員に会えてうれしい」など言っていただくこともあって。メンバーがいるから私のことも認識してくれる方が少なからずいましたし、何と言っても4人だからこそお客様に会える機会も多くてありがたかったです。
――メンバーに対してライバル意識もあったんですか。
寿 それは今も変わらずあります。友でありライバルであり仲間である、みたいな。家族以上に一緒にいる時間が長いですし、そういったお友達や仲間ってそうそう出会えないので、3人は特別な存在です。
――早くから芸能活動を始めて、どのぐらいの時期に、この先もエンタメの世界でやっていこうと決断しましたか?
寿 今の事務所に入ってからは、歌も踊りもお芝居も写真の撮影もライブも全て大好きなので、別のお仕事をしようと考えたことはなくて。あと、みんなが大学進学を考える時期に、うちの父から「もうやりたいことが決まってるんやったら、大学に行かんでもええやん」って言われて。大学に行きたい気持ちもあったんですけど、確かに何を学びたいかって言われたら特になかったですし、エンタメについて大学で学びたいかって言われると、もっともっと勉強しなくちゃいけないことはあるけど、早くから実践で学んでいるので大学に行く必要はないかなと。それに大学は、大人になってからでも行けるなと思って、お仕事一本に絞りました。
――実際、2020年より1年半ほどイギリス留学しますが、どういうタイミングだったのでしょうか。
寿 20代後半で、事務所に入って10年以上経っていた時期で。ありがたいことに順調にお仕事をさせていただいて、とてもハッピーではあったんですけど、何か足りないという焦りが常にあったんです。でも何が足りないのかは分からなくて、いろいろ考えてみて。仲間であり好敵手でもあるスフィアのメンバーと、ずっと同じレールを走り続けてきて、切っても切り離せない関係ではあるけど、この先10年も同じテンションで走り続けるのはハードだなって思ったんです。だったら一回、私はそのレールから降りてみて、別ルートから行くけど最終的に交わるみたいな形もあり得るのかなって頭によぎった瞬間、「それだ!」と思って。たまたま私の兄も仕事でイギリスに1年半ぐらい行っていたことがあって、それを頼ってイギリスに遊びに行ったときに、何か勉強するならここだなと感覚的に思ったんです。それで今までとは違う道を自分なりに選んでみようと考えたときに、やっぱりイギリスだなと留学を決めました。
――イギリス留学を経て、どんな変化がありましたか。
寿 気持が穏やかになったと思います。ずっと焦りが強かったのって、自分の居場所が欲しいからだったのかなと思うんです。イギリスに留学したからと言って、特に新しいことができるようになった訳ではないんですけど、「そこで私は過ごした」ということが自分にとっての強いサポートになっているんです。帰国してからも、留学した時間は自分にとって武器でもあるし、イギリス関連でお仕事を呼んでいただく機会も増えました。