鳥越裕貴の温かさと明るさに救われたことがたくさんあった

――映画『リバー、流れないでよ』は藤谷さんが所属する劇団「ヨーロッパ企画」のオリジナル⻑編映画第2弾ですが、いつ頃からお話を聞いていたんですか?

藤谷理子(以下、藤谷) 第1弾の『ドロステのはてで僕ら』(2020)が完成した時点で、代表の上田誠さんから「またやりたいんですよ」みたいな話を、劇団員も聞かされていました。具体的に動き出すということで、去年の夏に脚本の相談を受けました。

――作品の舞台となった京都・貴船は、藤谷さんが生まれ育った場所なんですよね。

藤谷 そうなんです。脚本の相談を受けたときに、舞台は貴船、私は旅館の仲居役というのは聞かされていたので、まず地元で映画を撮るんだという驚きがあって。初めて台本を読んだときにも具体的なロケーションが浮かぶので、すごく不思議な体験でした。

――初めて台本を読んだときの感想はいかがでしたか。

藤谷 お話のテンポが速くて、いろんな事件が次から次へと起きていくので、どんどん引き込まれて、登場人物たちと一緒に2分間のループに翻弄されさながら、面白くて一気に読みました。

――最初から台本で2分間のループは決まっていたんですね。

藤谷 決まってました。撮影も1シーンを2分間で撮らないといけないので、セリフの微調整はあったんですけど、台本は細かいところまで完成したものと同じです。

――カメラは何台かあったんですか?

藤谷 カメラは一台で、2分間ワンカットを撮り切るという撮影だったので大変でした。お芝居も良かった、カメラワークも良かったと思っても、「3秒足りない」ということもあって。撮影中も上田さんと記録の方が常にいて、「ここなら削れそう」とか「いや、削らずに、早口で言ってもらおう」と計算をしてくれて。舞台のお稽古でも上田さんは、「あと1秒縮められます」「あと1分はいけます」と細かく言うタイプの演出家なので、劇団員も「今の感じだったら、あと2秒は縮まりそうだね」とか何となく分かるところもあって。撮影が進むにつれて、精度もどんどん上がっていきました。

――リハーサルも入念にやらないと上手くいかないですよね。

藤谷 監督とカメラさんと役者でリハは何度も何度も繰り返し、入念に細かく決めてやってました。その作業がなかったら撮りきれなかったと思うので、大切な時間でした。

――撮影期間はどれぐらいだったんですか?

藤谷 全部で10日です。今年1月の間に10日間で撮り切る予定だったんですけど、1月24日から、10年に1度と呼ばれる最強寒波が直撃しまして、豪雪で撮影中止に追い込まれたんです。貴船は北の山のほうなので、雪が降る地域ではあるのですが、それにしても今年はすごくて。東京から来てくださったスタッフさんはノーマル車なので、ロケ地にたどり着けなかった方もいましたし、そもそも⼭⼝淳太監督も来ることができませんでした(笑)。4日ぐらい撮影が止まったんですけど、技術の皆さんも役者たちもスケジュールを調整して頑張った奇跡のリカバリーがありまして、2月3月に追撮して、何とか撮り切りました。だから雪が降っているシーンと、春っぽいシーンがあるんです。でも結果的に、雪のシーンがあることで、作品の幅も広がりました。

――雪が降りしきる中、藤谷さん演じる仲居のミコトと、鳥越裕貴さん演じる料理人見習いのタクが車に乗って、雪道を走るシーンはスリリングでした。

藤谷 良いシーンですよね。鳥越さんは運転がすごくお上手な方なので、安定感があって、全然怖くなかったですね。雪国の方じゃないんですけど、安心して命を預けていました(笑)。

――鳥越さんの印象はいかがでしたか。

藤谷 月並な表現なんですけど、本当にその場にいらっしゃるだけで、周りがぱっと明るくなるような方でした。今お話しした通り過酷な撮影で、鳥越さんが撮影に参加されて、すぐに撮影中止になってしまったんですけど、その中でも楽しみを見いだしていらっしゃって。「撮影がなかったから、京都の神社に行ってきたよ」とか、「メンバーと麻雀したよ。初めての麻雀だったけど、これを機にやってみるわ」と非常にポジティブで。撮影再開後も、鳥越さんの温かさと明るさに救われたことがたくさんありました。