ヨーロッパ企画の存在を教えてくれたのは演劇好きの父

――藤谷さんがヨーロッパ企画に興味を持ったのは、お父さんがきっかけだったそうですね。

藤谷 そうなんです。父は学生時代から演劇が好きだったみたいで、アングラ世代というか、演劇が盛り上がっていた時代にドンピシャで青春を送った人なんです。私がお芝居に興味があると言ったら、「京都で演劇を見るんだったら、ヨーロッパ企画じゃないか」と家族全員分のチケットを取ってくれたんですよね。実際、観劇したら家族でヨーロッパ企画のことが大好きになって、本公演はみんなで観に行ってましたし、弟と二人で大阪公演を観に行くこともありました。いまだに私が本公演に出るときは、家族みんな観に来てくれます。

――もともとクラシックバレエをやっていたそうですが、人前で表現するのは小さい頃から好きだったんですか。

藤谷 はい。バレエをやっていて何が楽しかったかというと、舞台で表現をして、それをお客さんが観て拍手してくれることで、それが小さい頃からうれしかったんです。一生懸命お稽古したら、本番の舞台にも現れますし、頑張れば頑張っただけ上手になるみたいな楽しさもあって。お稽古したものをお客様にお見せするというサイクルを楽しめる子だったと思います。それって演劇も一緒というか。だから演劇に興味を抱いたのも、今思うとそんなに不思議じゃないですね。

――バレエのプロになるのは狭き門ですけど、その道も考えていたんですか?

藤谷 中学生ぐらいまではバレエダンサーになりたかったです。ただバレエは踊りだけではなくお芝居のパートもあって。たとえば「シンデレラ」の演目だと、シンデレラの意地悪なお姉さんって、お客さんの笑いを誘う面白い役なんですよね。それまではお姫様役とかをしずしず踊ってたんですけど、初めて意地悪な姉さんをやったときに、見ている人が笑ってくれるから、すごく楽しくて。もう一人のお姉さん役の子と「明日はこうしよう」とかいろいろ考えたりして。舞台上でお客さんに笑ってもらううれしさ、演じる楽しみたいなものは、バレエをしていたときからありました。だからこそバレエで挫折して、バレエから逃げたくなったときに、でも舞台には立ちたいという気持ちが強くて、そういう欲求を叶えてくれそうだと感じたのが演劇だったのかなと。

――どうしてバレエに挫折したのでしょうか。

藤谷 思春期特有の反抗期というか、ちょっと難しい時期だったこともあって、先生や親から「ちゃんとバレエをしなさい」とか言われると、逆に「やりたくない!」「ダイエットなんてしたくない」ってなっちゃっていたんです。海外でバレエダンサーになりたかったので、短期留学も経験しているんですけど、海外の人に対するコンプレックスもあったりして。本当は表現することが好きだったはずなのに、踊ることが義務みたいになると、やっぱり楽しくない。将来、私がバレエをやり続けたとして、楽しいビジョンが見えないぞって思ったときに、ふと逃げたくなったんです。

――2014年、高校最後の春休みにヨーロッパ企画の諏訪雅さんが脚本・演出した「夢! 鴨川歌合戦」のオーディションに合格して舞台デビューを果たした後、日本大学芸術学部へ進学します。どうして大学進学を選択したのでしょうか。

藤谷 その頃にはもうバレエに対する気持ちはさっぱりと整理がついて、演劇を好きになっていました。ただ本格的に演劇をやっていくなら、誰かに教えてもらわなきゃ駄目だなと思って、大学で演劇を学ぶことにしました。ただ在学中に旅公演などがはいると、大学に行けずに単位が取れなくなり休学したんです。そんなことを繰り返しているうちに、少し忙しくなって、24歳で中退しました。

――大学に行って良かったことは何ですか?

藤谷 演技理論や演劇史の授業を受けられたことですね。お芝居をする上で実際はあまり必要ないという人もいるかもしれないですけど、そういう知識を得られるのは楽しかったです。あと何より演劇をやっている同世代の人たちと繋がれたのは大きかったと思います。在学中、友達と小屋を借りて劇をやったりもしたので絆もあって。いまだに誰かが演劇をやれば、観に行くし、観に来てくれますし、「この人は今も、こんなに頑張ってるんだ」と刺激にもなります。演劇をやっていて、同じ方向を向いている人たちに出会えたのは財産ですね。

Information

『リバー、流れないでよ』
絶賛公開中!

出演:藤⾕理⼦
永野宗典 ⾓⽥貴志 酒井善史 諏訪雅 ⽯⽥剛太 中川晴樹 ⼟佐和成
⿃越裕貴 早織 久保史緒⾥(乃⽊坂46)(友情出演) 本上まなみ 近藤芳正

原案・脚本:上⽥誠
監督・編集:⼭⼝淳太
主題歌:くるり「Smile」(Victor Entertainment / SPEEDSTAR RECORDS)
製作:トリウッド ヨーロッパ企画

舞台は、京都・貴船の⽼舗料理旅館「ふじや」。仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたが、やがて仕事へと戻る。だが2分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川を前にしている。「……︖」ミコトだけではない、番頭や仲居、料理⼈、宿泊客たちはみな異変を感じ始めた。ずっと熱くならない熱燗。なくならない〆の雑炊。永遠に出られない⾵呂場。⾃分たちが「ループ」しているのだ。しかもちょうど2分間!2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう。そして、それぞれの“記憶”だけは引き継がれ、連続している。そのループから抜け出したい⼈、とどまりたい⼈、それぞれの感情は乱れ始め、それに合わせるように雪が降ったりやんだり、貴船の世界線が少しずつバグを起こす。⼒を合わせ原因究明に臨む皆を⾒つつ、ミコトは⼀⼈複雑な思いを抱えていた――。

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藤⾕理⼦

1995年8月6日⽣まれ。京都府出⾝。幼少期よりバレエを学び、英国ロイヤルバレエなどに短期留学。2016年にヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」に出演。俳優として舞台、映像を問わず活躍中。2021年よりヨーロッパ企画に⼊団。近年の出演舞台に「たぶんこれ銀河鉄道の夜」、「もはやしずか」、「M.バタフライ」、こまつ座「⽇本⼈のへそ」、出演ドラマに「ももさんと7⼈のパパゲーノ」(NHK)、「カンパニー〜逆転のスワン〜」(NHK BSプレミアム)、出演テレビに「ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン」(声の出演/NHK Eテレ)などがある。

PHOTOGRAPHER:YU TOMONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI