青春の日向にある部分や光が射している部分を描きたかった
――金髪にしたのは初めてですか?
吉澤嘉代子(以下、吉澤) 初めてです。金髪にしたら、お洋服やお化粧も変わりました。新しく眉マスカラを買ったりして。
――作品に合わせて金髪に?
吉澤 今回のEP『若草』に「ギャルになりたい」という曲があるんですけど、私もキャピキャピしたいなと思って、髪も合わせてみました。
――もともとギャルに憧れがあったんですか?
吉澤 ありました。私の中でギャル=ヤンキー、強さの象徴みたいなイメージがあるんです。地元が埼玉なんですけど、遠くからギャルを見ていました。
――ギャルのマインドにも憧れはあったのでしょうか?
吉澤 そうですね。ギャルもそれぞれだとは分かっているんですけど、どうしてもステレオタイプなイメージの中で、ギャルと言えば明るくて強くて、悩みや失敗も笑い飛ばしてくれるだろう、みたいなイメージがあります。
――金髪にして周囲の反応はいかがですか。
吉澤 いろいろな意見があります(笑)。ずっと金髪に対するハードルがあったんですけど、やってみるとなんてことはないと気づきました。
――今回のEPは「青春」をテーマにした二部作の第一弾で、 2024年春には第二弾となるEP『六花』のリリースも決定しています。同じテーマの中でも違いはあるのでしょうか。
吉澤 『若草』では青春の日向にある部分や光が射している部分、『六花』では切なさとかお別れみたいなものも盛り込みたいなと思っていて。『若草』は元気なアルバムにしたいなと思って曲を選んでいきました。
――1曲ずつ解説していただきたいんですが、1曲目の「氷菓子」は先行シングルで、川上未映子さんの短編小説「アイスクリーム熱」を映像化した映画『アイスクリームフィーバー』(23)の主題歌です。歌詞を書くにあたって、原作を読み込んだそうですね。
吉澤 数ページの短い小説なので、こんなに儚いお話をどう映画にするんだろうと。なので何か汲み取れないかなと思って一字一句、何度も何度も読み込んで。脚本が上がってきたらそれも読みこんだり、監督の千原徹也さんが出しているお仕事の本を読んだり。「氷菓子」のように何かの作品に添える曲は、いつでも素材集めから始まるんですよね。千原さんにとって初監督作品なので、どういう作風なのかも分からなかったんですが、ずっとジャケットやミュージックビデオでご一緒してきたので、その感謝の気持ちも送りたいなと思って、最後は監督に手紙を書くような気持ちで曲を書きました。
――『アイスクリームフィーバー』の試写会では緊張で一時退席したと伺いました。
吉澤 事前に完成した映画は観ていたんですけど、試写会で見ると、もうすぐ私の曲が出るぞと思ったらお腹が痛くなっちゃって退席してしまいました(笑)。ヤバい、映画が終わると思って戻ったら、ちょうど私の曲が流れてきました。一番素敵なシーンで流してくださったので、スペシャルなものを用意してもらったみたいな気持ちでうれしかったです。
――2曲目は「青春なんて」。
吉澤 「青春とは?」という問いの、自分なりの一つの答えみたいなものを書きました。青春の真っ只中にいるときは「これが青春だな」って気づけないですけど、後からそれを思い出したときに、心がヒリヒリして、あれが青春なんだと気づくものだなと思って。今も青春かもしれませんし、10年20年経ったときに、「あれが青春だったな」って思いそうな気もしています。サウンドはカントリーっぽい感じの温かみがあるものにしました。
――3曲目の「セブンティーン」はタイトル通り17歳のときに書いた曲だそうですね。
吉澤 この曲を書いたときは、セブンティーンって何かが起きるような気がしていたんです。ところが実際になってみたら甘くも辛くもないなと思って、大人になったときにそれを思い出してもらおうと思って書いたんです。でも、今こうやって振り返ると、どうしても眩しく見えてしまって、私も大人になったんだなと思いました。
――17歳の時点で、大人になった自分に届けようと思っていたんですか?
吉澤 そうですね。私は子どもの頃からそういう節があって、「子どもはそんなに純粋じゃないぞ」ってメッセージを胸の中に秘めていたんです。だから青春時代も、「青春はそんなにキラキラしてないぞ」というメッセージを留めていたんですが、当時バタバタと足掻いていた自分もキラキラしていたなって。
――曲はシンプルなロックンロールです。
吉澤 この曲と「夢はアパート」は、「編曲:吉澤嘉代子とナインティーズ」と称していますけど、同世代のミュージシャンを集めてレコーディングしたんです。この曲は特に一発録り感というか、「せーの!」で録って、上手に弾かない叩かないっていうのを目指しました。
――今まで、そういう録り方の経験はあったんですか?
吉澤 初めてです。レコーディングもブースを分けずに、同じ部屋で、みんなで囲んで録って。そしたら終わった瞬間、涙が出そうになったんです。みんなも「泣きそうになっちゃった」と言っていたんですが、その瞬間、過去に戻ったというか、初めてバンドを組んだような感覚があって、その瞬間は17歳の自分が憑依していました。