貧乏や悪口よりもお笑いで結果を出せないのがつらかった

──映画『くすぶりの狂騒曲』はプライベートの細かい部分まで描かれていますが、脚本を作る段階で取材はあったのでしょうか。

大波 撮影に入る前に立川晋輔監督と脚本の中村元樹さんの4人で面談みたいなのがあって、マヂカルラブリーさんが優勝したときどんな気持ちやったか、大宮セブンになったときどんな気持ちやったかなどをお話しして。それを基に脚本にしていただきました。

──たとえばファンの方もモデルの方はいらっしゃるんですか?

安部 そのままではないですが、いろんな人が合わさってできたキャラクターです。

――これまで大宮セブンが2014年に結成してからの10年間を振り返ることはありましたか?

大波 なかったですね。たまに笑い話として、あんなことあったなぁぐらいのことはライブで喋ったりしますけど、一人で物思いに耽って思い出すみたいなことはないですね。

安部 つらいことよりも楽しい思い出のほうが多いですしね。

大波 大宮に行く前からお金のないことに慣れていたんで、ずっと貧乏というか。それの延長線やったんです。周りもお金がないですし、意外とつらかったぁとかはないんです。

安部 芸人という職業を選んじゃっているんで。楽しくやらさしてもらえてるんでね。

──映画では安部さんが長くアルバイトをしていたエピソードも盛り込まれています。

安部 僕は居酒屋で8年、コンビニで8年やってたんですが、最初の居酒屋はオープニングスタッフから始まって、気づいたら店長も社員も全員年下になってて(笑)。そのことを知らん僕がホールを片付けてキッチンに戻ったら、年下の大学生が僕のネタをYouTubeかなんかで見たらしく、めちゃくちゃいじられました。

大波 ははは。

安部 「きつぅ……」みたいになって、それで居酒屋を辞めて、コンビニに入って、コンビニとコンビニを掛け持ちしたり。

──大波さんはどんなバイトの経験がありますか。

大波 リヤカーでお酒の配達をしたり、パチンコ屋でもやってましたし、自治体のやってる公園の清掃とか、そんなんやってました。

──公園の清掃は若い方もやられるんですね。

大波 芸人って一人バイトに入るじゃないですか。それで「このバイトいいぞ」ってなったら、湯水のごとく芸人仲間を入れるんですよ。で、バイトごと芸人しかおらんという環境を作りたがるんです。そしたらライブなどが急に入ったとしても替えがきくじゃないですか。だから寄生虫みたいな動きをする芸人がたくさんいて。公園の清掃も僕の先輩が自治体の応募で入ったら、「いいぞ」って感じで。10人20人芸人入れて、そこで回すみたいな。

──芸人さんは良いバイトを受け継ぐイメージがあります。

安部 そうですね。芸人だけで固まりたがるっていうか、それが楽しいみたいなこともあると思うんですけど。

──安部さんはそういう方向には行かなかったんですか?

安部 僕は真逆のタイプで、自分の中でテリトリーを作りたがる。一般で応募して、一人でコソコソやるんです。

──大宮セブンがくすぶっていた頃は、「大宮ラクーンよしもと劇場」の外で社員の方からも厳しいことを言われていたそうですね。

大波 そんときは何も言わんと、大宮に帰って死ぬほど社員さんの悪口を言うてました(笑)。

安部 それも笑いの一環というか、自虐ネタみたいにするノリはあったんです。

大波 お金ないとか、社員に何か言われるとかって全然苦じゃないんですけど、お笑いで結果が出ないっていうのが一番つらい。それ以外は悪口言われるとか、虐げられるとかも全部おいしいっていう感覚なんです。結局、僕らの表現するもんが、なんで受け入れられへんねんっていう、ここがつらかったですね。

安部 吉本にいる以上は社員さんがキャスティングとかも決めるんで、僕らは初代「大宮ラクーンよしもと劇場」の支配人さんが異動された後、劇場出番がガクッと減ったんですよね。僕らよりも、他事務所の芸人さんのほうが大宮の舞台に立っているぞみたいな時期もあって。

大波 それすらもネタというかね。

安部 もうしょうがないというか、僕らがお客さんを呼んでいて、そういう状況なら不満だったんでしょうが、売れてないし、集客もないしみたいな、そこは自虐でやってました。

──大宮セブンの仲間であるマヂカルラブリーさんやすゑひろがりずさんなどがブレイクしていく中、嫉妬心みたいなものはなかったのでしょうか。

大波 マヂカルさんもすゑひろがりずも、お客さんをいっぱい連れて来てくれたんです。だから大宮セブンのライブはお客さんであふれて、チケットも取れなくなって。そうなるとライブでウケるんで、悪い言い方をすればおこぼれ。マヂカルさんやすゑひろがりずを見に来たけど、横のこいつらおもろいやんみたいなのがあったので、ただただありがたかったです。

安部 ただ僕らが大宮セブンに貢献できてるのかというところで、僕の場合は劣等感というか、早く僕らも大宮セブンにお客様を連れて来られる立場になりたいという思いはありましたね。