脚本を読んだときにジブリ作品や『ドラえもん』の長編映画を思い出した
――映画『男神』の脚本を初めて読んだときは、どんな印象を受けましたか。
遠藤雄弥(以下、遠藤) オファーをいただいたときに、まずYouTubeのサイト「怖い話怪談朗読」に上がっている原案の『男神』の朗読を聞いたんです。正統派のホラーで、怪談話から展開されていくのですが、どういう映画になるのか想像がつきませんでした。そこから着想を得て井上雅貴監督が書いた脚本は、原案とは違う世界観で。ホラー調ではあるんですが、ファンタジー、家族愛、冒険もののワクワク感など様々な要素が入っていて、普通のホラー映画ではなく、豊かなテーマ性と壮大な世界観の映画になりそうだなと興味を惹かれました。
――随所にホラー要素はあるものの、そこまで恐怖を煽る作品ではないですよね。
遠藤 たとえば妻が「絶対に覗かないでね」と言った夜に、僕の演じた和田勇輝が覗きに行くシーンなんかはホラー映画感を出して撮影しているんですが、建設現場に発生した正体不明の深い「穴」に入っていくシーンはロマンがあって、映画特有の豊かさがあります。
僕が脚本を読んで思い浮かべたのは、『千と千尋の神隠し』(01)や『ドラえもん のび太の創生日記』(95)など、小さい頃から慣れ親しんでいたジブリ作品や『ドラえもん』の長編映画でした。『男神』はホラーと言いつつ、PGもついてないですし、家族の話でもあり、冒険感もあるので、家族で見ていただけるファミリー映画にもなり得るんですよね。井上監督はご自身で編集もされますが、完成した『男神』を観て、他にはないタッチだと感じました。そこも含めて、子どもにも大人にも楽しんでもらえるような映画になっています。
――撮影は岐阜県の下呂市と愛知県の日進市で行われたそうですね。
遠藤 順番的には最初に下呂市での撮影で、穴に入ってからの森のシーンや、儀式が行われているシーンなどを撮影させていただきました。ラストの穴から出てきて逃げるところや、主人公たちの職場、家回りなどの撮影は日進市です。
――CGも使われていますが、上手く実写に溶け込んでいました。
遠藤 黄泉の国の描写なんかはふんだんにCGが使われていますが、自然とマッチしていますよね。黄泉の国に入ってからの森のシーンは、ロケーションを活かしつつ、最小限のCGだったと思います。
――役作りの上で意識したことを教えてください。
遠藤 井上監督との話し合いで一つあったのは、主人公は家族愛が強過ぎるがゆえに、愛する妻と息子が穴に入って失踪してしまったときに常軌を逸した行動に走ってしまう。巫子たちに対する態度は不遜なところもありますが、家族を守らなければいけないという精神性から来る狂気さ、必死さを表現できたら面白いですよねという意見で一致しました。カトウシンスケさん演じる木曽田浩司との関係性も、ついつい暴力的になってしまう。そういう主人公像を意識しました。
――カトウシンスケさんは『ケンとカズ』(16)、遠藤さんは『辰巳』(24)と、お二人とも小路紘史監督の映画で主人公を演じているので、つながりみたいなものを感じました。
遠藤 面白いですよね。僕自身、シンスケさんとはご縁を感じていて、『ONODA 一万夜を越えて』(21)という映画でも共演させていただいていますし、普段からお世話になっている先輩なんです。今回、浩司はカウボーイで、もともとは勇輝も浩司の同僚でカウボーイをやっていたという設定だったので、二人で愛知牧場さんに行って、一緒に乗馬の練習をしました。
――過去に乗馬経験は?
遠藤 僕は『男神』で初めて乗馬を体験させていただいて、いい機会をいただきました。愛知牧場さんは乗馬の体験教室もやっているので指導も慣れていらっしゃいましたし、馬たちも人を乗せるのに慣れているので、すぐに形になりました。
――『男神』に出てくる馬は美しかったです。
遠藤 めちゃめちゃ綺麗で、優しくて、性格も温厚な馬でした。僕らみたいな素人でも、すぐに言うことを聞いてくれましたからね。ただ、馬も生き物なので長時間拘束されるとストレスがかかっちゃうんですよね。乗馬のシーンを撮影する日に手違いがあったみたいで、本来は夕方から夜までの2、3時間の撮影だけで済む予定が、朝から僕らの乗る馬が待つことになってしまったんです。その影響か撮影が始まったときはバタついて、そのときは怖かったです(笑)。そういう瞬間もありましたが、それ以外は和気あいあいと乗馬のシーンを撮影させていただきました。