Casual Meets Shakespeareを通してコメディとシリアスは表裏一体だと感じる

――『ヴェニスの商人 CS』の出演が決まった時のお気持ちからお聞かせください。

北村健人(以下、北村) Casual Meets Shakespeareに関しては去年、『マクベス』に出演させていただいたのですが、シェイクスピアは役者として避けて通れない大きな存在だと思っていて。『マクベス』をやる前に、シリアスの『オセロー』を観に行ったのですが、これがコメディになるとどうなるんだろうと想像がつかなかったんです。実際に『マクベス』をやってみて、やればやるほどコメディとシリアスは表裏一体だと感じたので、とても面白いコンセプトですね。

――「表裏一体」というのは、どういうところに感じましたか。

北村 常日頃から言葉の持つ力を感じることが多くて、「ありがとう」一つとっても、相手を傷つける言い方もできれば、感謝を伝えることもできる。物語全体を通して、そういった印象を与えてくれるコンセプトだなと感じました。『マクベス』をやった上での今回なので、その違いに着目しながら台本を読みました。同じ作家なのに画風が違うというか、こんなにも軽やかなんだと。喜劇と悲劇で分けているだけあって、纏う空気が違うんだなと感じました。

――松井さんはいかがでしょうか。

松井勇歩(以下、松井) シェイクスピアを観たことのある方は、悲劇は悲劇、喜劇は喜劇というイメージが強く残っていると思うんですが、悲劇を喜劇、喜劇を悲劇と逆をやるというのは面白そうだなと思いました。ただ言うは易しで、実際にやってみると本当に難しい。単純に逆のことをしているのではなく、とても複雑なことになるんだなと稽古場で体感しています。

――そもそも『ヴェニスの商人』は喜劇なので、シリアスにするのは難しい作業ですよね。

松井 言葉遊びもあって、セリフのやりとりもカジュアルに書かれているので、どうやっても会話のテンポは良くなります。そこからコメディ要素を引き算していくというのは初めての経験です。通常は自分なりの解釈で足し算していって、良きところで引いていく作業が多いんですが、今回は最初から引き算を考えながらやるというのが独特で、楽しんでいますけど、苦しんでもいます。

――どのように引き算をしていくのでしょうか。

松井 コメディ要素を抑えていくだけだと、笑いのない寒い内容になってしまうので、演出の(松崎)史也さんと役者が相談しながら、丁寧にピースを詰めていく作業です。役者によっては面白く聞こえてしまうセリフもあるので、繊細に話し合っていますね。

――北村さんはご自身が演じるシャイロックについて、どういう印象をお持ちですか。

北村 第一印象はかわいそうだなと。シャイロックは自分なりの正義で生きていて、アントーニオやバサーニオたちに悪いことをするのも、その前段階として「あなたたち(キリスト教徒)が酷いことをやったからでしょう」という被害者的な面があります。それなのに正義という言葉の解釈を変えられたり、数の暴力で意見を封じ込められたり、挙句の果てに大切な娘も奪われてしまう。表面上は悪く見えるかもしれないけれど、すごくかわいそうだなと思いました。ただ今回は脚色が入ったことで、シャイロックの友人でユダヤ教側のテューバルの存在感が増しています。原作だとテューバルの登場するシーンは少なくて、シャイロックが一手に敵役を引き受けているんですよね。だから今回はテューバルと共に、圧倒的な存在感やエネルギーを惜しまずに出していかなければいけない役だなと思っています。

――松井さんはご自身が演じるバサーニオについて、どう受け止めましたか。

松井 この物語においては、全ての元凶の男です。しっかりと生活していればお金に困ることもないのに、自分が好きになってしまった人や自分の心で思ってしまったことに対して、とても真っ直ぐな男だからこそ、トラブルを起こしてしまう。お金がなくて助けてくれるのは友人のアントーニオだし、後半の裁判で自分ではどうしようもできないところで助けてくれたのは愛するポーシャだし。周りに恵まれすぎているんですよね。気持ち優先で動いてしまうんですが、周りに助けてもらうことで成立しているのでヒヤヒヤするんですが、どこか憎めないんですよね。