簡単に人間はカテゴライズできない

――『本当にあった話(の話)』で水上さんが演じる夛田(ただ)は、演技経験がないのに、「配偶者入れ替え連続殺人事件」と称される実話にもとづく舞台劇の主人公役に抜擢されます。初めて脚本を読んだ時、どんなキャラクターだと感じましたか。

水上恒司(以下、水上) 映画を観る皆さんが、自分事として捉えられる可能性を持ったキャラクターではないかと思いました。誰しも思い込みってあるじゃないですか。たとえば「天然」という言葉がありますよね。誰かに天然と言われたことのある人なら分かると思いますが、人間はそんなに簡単にカテゴライズできないはずなんです。この人はこうだ、この物事はこうだと決めつけるのは簡単ですけど、本当はよく分からないことも多い。もっと深く考えなきゃいけないはずなのに、それにはエネルギーも時間もかかります。これだけ効率や手軽さが求められる今の世の中では、楽なほうに流れてしまうのは自然なことです。でも、そういう思い込みによって、人がこんなにも変わってしまう可能性があるということを、この作品は提示している。だからこそ夛田には、誰しも心当たりのある、紙一重な部分がたくさんあるのではないでしょうか。

――普段の夛田と、素人俳優としての夛田を演じ分けるのは難しかったのではないでしょうか。

水上 クランクイン初日が、夛田のオーディションのシーンでした。その後に相手役の米良(黒木華)と、夛田の家で読み合わせをするシーンがあって。その時に監督の武井(佑吏)さんから「上手過ぎるので、もうちょっと下手にしてほしい」という演出を受けたんです。おっしゃっている意味は分かったので、「分かりました」と答えました。武井さんがモニターの方に戻られて、僕はヘアメイクを直していただきながら「用意、スタート」の声を待っていたんですが、その間にふと考えたんですよね。「下手にしないといけないということは、俺は自分のことを上手いと思っているのか」と妙な葛藤が生まれたんです。芝居が上手いとか下手とかって一体何なんだろうと。そこで僕が選んだのは、呼吸を浅くすること、セリフを噛むこと、そしてセリフを言おうとしている役者を演じることでした。