舞台『パラサイト』は、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の見事な日本バージョン
――今回、出演される舞台『パラサイト』は、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』を日本の家族に置き換えた作品ですが、もともと映画はご覧になっていましたか。
山口森広(以下、山口) 公開当時に劇場で観ました。「面白い」という噂は聞いていたんですが、まだ米アカデミー賞を受賞する前で、事前情報を入れずに観に行ったので、タイトルの“パラサイト”が何にかかっているのか分からない状態でした。観ていくうちに、主人公の家族が、豪邸に住む家族にパラサイトしていくお話なんだと分かってきて。サスペンス調でありながら、コメディの要素も入っていて、息を吞むように観ていたらラストまであっという間でした。すっきり終わるラストではないですし、身分の違いなど、いろいろ考えさせられました。
――今回、日本版『パラサイト』のオファーがあった時は、どう思いましたか?
山口 鄭義信(ちょん・うぃしん)さんが演出する舞台に出るのは初めてなんですけど、鄭さんが『パラサイト』を演出すると聞いて、どんな化学反応が起きるんだろうとワクワクしました。鄭さんの舞台は、舞台上の人たちがみんな休むことなくカロリーを消費するみたいなエネルギッシュなイメージがあります。逆にパラサイトって静かにじわりじわりと感染していくというイメージがあって、舞台が関西に変わって、どのような鄭さんワールドが繰り広げられるのか楽しみでした。
――台本を読んだ時の印象はいかがでしたか。
山口 舞台が日本に変わることによって、ガラッとお話しの印象も変わるのかなと思ったんですけど、ちゃんと映画『パラサイト 半地下の家族』の世界観を守った上で、見事に日本バージョンになっているなと。次のシーンでは、あの人がいなくなって、みたいな感じで、どんどん浸食していく様を強く感じました。
――山口さんが演じるのは、豪邸に住む主の元運転手ですが、どんな役作りを考えていますか。
山口 3年間ずっと社長の元で運転手をやっていた人なので、きっと仕事ができたのでしょうし、いい人だと思うので、「あんな良い人が辞めさせられちゃったんだ」と思ってもらえるように演じたいですね。
――舞台稽古に入る前は、どんな事前準備をすることが多いんですか?
山口 僕の所属する劇団「ONEOR8」で言うと、事前に台本をもらえることはまずないんです(笑)。顔合わせの時に初めて台本を読んで、みんなの言葉を聞いて、そのときが一番自然で無理のない状態なので、最初の表現が素直なんですよね。作り込んでいかずに、みんなフェアでいられるからこそ、稽古を重ねる過程で柔軟に肉付けすることができるんです。だから、かっちり決めないことが多いです。今回の舞台は事前に台本をいただいていますが、一か月ちょっとの稽古で、皆さんと一緒に作り上げていきたいです。
――舞台を始めた時から、そういうスタンスだったんですか?
山口 経験を積むうちにです。二十代前半の時に、とある再演の舞台に出たんですが、たまたま初演の舞台を一観客として観ていました。再演で初めて自分にオファーが来て、大先輩方がたくさん出演していましたから、かっちり役作りをして稽古に臨んだら、「お前、相手のセリフを聞けてないよ」と言われたんです。僕のほうで事前にタイミングを決めちゃっていたので、本来だったら聞けていたものが、聞けていなかったんでしょうね。稽古に入る前は「70%ぐらいでいいんだよ」という話も聞きますし、柔軟に変化していかなきゃいけないんだなと学びました。