ここ最近で演じた中で最も自分の実体験に近くて等身大の役
――映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』 は、時価6億円の「伝説の真珠」を巡る家族の大騒動と、成年後見制度(※家庭裁判所で選ばれた後見人が認知症、知的障がい、精神障がいなどの理由で判断能力が不充分な状況にある方々に代わり、契約、各種の手続き、財産の管理を行う制度。1999年に成立)の問題を描いたストーリーですが、最初に台本を読まれたときの印象を教えてください。
比嘉愛未(以下、比嘉) 相続とかお金にまつわることは絶対に逃れられない問題で、家族の関係性が崩れることもありますし、だからこそ成年後見制度が設けられました。その制度自体は知っていたのですが、台本を読んだときに、成年後見制度を不正に利用する人たちがいて、いろんな問題が起きていることを初めて知りました。それで悩んでいる方も多いですし、他人事ではなく、ちゃんと逃げずに向き合うことが大事だなと思いました。
――いつ自分の身に降りかかってくるか分からない問題ですからね。
比嘉 まだ親が若いからって大丈夫じゃないんですよね。私自身、親との関係を考えるきっかけにもなりました。ただ、この作品は相続や成年後見制度のお話だけではなくて、そこから繋がる人間関係に至るまでをハートフルにコメディタッチで描かれています。難しいテーマを、重くなり過ぎずにバランスよく描いているところは、田中光敏監督の世界観だなと。押し付けじゃなくて、寄り添ってくれるような作品です。
――比嘉さん演じる遥海は、遺産相続で揺れる大亀家の三女です。
比嘉 遥海は故郷を捨てたといいますか、親との確執があって、いろんなことに絶望し、東京で人生の再スタートを切ります。でも母の死をきっかけに、家族と向き合わなければいけないと地元の三重県伊勢志摩に戻ったところから物語が始まる。正直言って、演じていてつらかったですね。
――つらかったというと?
比嘉 相続とお金の部分は別にして、すごく自分に繋がるところがあったんです。私自身、高校卒業後に俳優を目指して上京するときに親から猛反対を受けました。今だったら親の気持ちも分かりますけど、当時はどうして子どもの夢や目標を応援してくれないんだろうという反発心といいますか、理解してくれないイコール拒絶されていると思っちゃったんです。だけど今は、親の愛で子どもを守りたかったんだろうなと理解できます。遥海も子どもの頃に抱えた傷を、ずっと背負い続けた人。だから遥海を演じるときに、あのときの自分を思い返して、過去の傷を振り返る作業をしたんですよね。私たちのお仕事って、ただ演じるだけじゃなくて、自分の実体験もスパイスになるんですけど、苦しかった過去と向き合う作業はとにかくしんどかったです。
――確かに遥海はシリアスなシーンが多いですね。
比嘉 田中監督が仰っていたのは、「この映画の登場人物の中で一番つらいのは遥海だ」と。成年後見人である城島龍之介(三浦翔平)も環境は違えど、つらい過去を背負っていますが、だからこそ二人は同じ傷を持った同士で反発しちゃうんですよね。遥海は、ここ最近で演じた中で最も自分の実体験に近くて、等身大の役。だから苦しかったんです。遥海って全般的に笑顔がないんですよ。私自身は感情が豊かに出るほうなので、それを抑えて演じていくうちに、自分のことを内観して思い起こせることもあって、感謝の気持ちもありましたし、それによっての気づきも得ましたし、やりがいのある役柄でした。