人生には一人ひとりにヒントや扉があって、それを自分自身で開くかどうかが大切

――先ほど上京する際に、親から大反対を受けたというお話がありましたが、いつ頃から俳優という仕事を受け入れてくれたんですか?

比嘉 一番大きかったのは、朝ドラ「どんど晴れ」のヒロインに選んでいただいたときですね。大きな結果を出して、認めざるを得なかったというか(笑)。

――今は親とも腹を割って話していますか?

比嘉 未だに分かり合いつつも分からない部分もありますが、話し合うようにしています。老後についても、今回の映画をきっかけに話していますし、とにかく向き合うことが大事だなと。本音を言い合うのって恥ずかしいけど、踏み出さないと何も変わらないじゃないですか。親に面と向かって「ありがとう」って言うのは難しいけど、機会があれば気持ちを伝えるようにしています。

――何かきっかけがあったんですか?

比嘉 三十代になって、親も絶対じゃないですし、自分も含めて、いつ何があるか分からないと考えるようになったんですよね。悔いがないように毎日を生きようとすると、伝えざるを得なくなったというか、すごく考え方がシンプルになってきたんです。若いときはプライドも高いし、恥ずかしさもあるしで、自分自身をがんじがらめにしちゃうじゃないですか。それはそれで今思い返せば面白いし、かわいいなとも思いますけどね。それぐらい自分を俯瞰して見られるようになりましたし、そうすると生きることって、そんなにしんどくないかもって思ったんです。家族だけに限らず、人間関係において、ちゃんと諦めずに向き合っていけば、すぐにではなくても、絶対に出口というか、道筋を見つけられると信じています。

――焦らずに向き合うことが大事なんですね。

比嘉 田中監督が“赦し”と仰っていたんですが、愛情があるから赦せるわけではないと。実際、血は繋がっていても、上手くいってない家族もあるじゃないですか。だけど本当の意味で赦せたことで、そこから愛情が生まれることもあります。がんじがらめだった遥海も、素直になることで、人生がバーッと開けて物事が好転していきます。この映画を通して、人生には一人ひとりにヒントや扉があって、それを自分自身で開くかどうかが大切なんだと学びました。

――三十代になって意識が変わったと仰っていましたが、お仕事の面でも変化はありましたか。

比嘉 正解がないお仕事ですが、前より後悔みたいなものはなくなっています。完璧主義であることも大切ですが、自分が頑張ったと思えたら、100%じゃなかったとしても、そのときのパフォーマンスで限界を出せたならいいんだと。あとは相手に委ねてみたいな感じで、良い意味で気楽に、現場に臨むようになりました。そういう考え方になったのは、本当に最近で2、3年前ぐらいです。

――どうして、そういう考え方になれたのでしょうか。

比嘉 いろんな人からの助言もありますし、そうとう二十代のときに模索しましたからね。たくさんの作品に出させていただいて、いろんな仲間と出会って、それが刺激になって、時には人と自分を比べてへこむこともあって。様々な経験があったからこそ、人は人、自分は自分って思えるようになって、そうすると自己否定があまりなくなるんです。芸能界は特にそうですけど、どうしても世の中って競争だったり、順位付けだったりと、数字みたいなものが付いて回ってきます。でも、だんだんと「今の時代にそれっておかしいよね?」というふうになってきてもいるじゃないですか。競争するのではなくて、個々のオリジナリティを尊重し合うと争わなくなって、自然と調和して協力し合うんですよね。

――先ほどのお話を聞くと、まさに今回の映画はそういう現場だったんですね。

比嘉 そうなんです。田中監督自身がそういう方だから、ああしろこうしろと言わなくても、自然と調和が生まれるんです。作品作りって勝ち負けではないですけど、戦わずして勝つみたいな、そういう戦い方もあるんだなと。そう考えたときに、二十代の頃の私は、まさに何かと戦い続けていたんです。それって自分に自信がないことの裏返しで、「なにくそ!」と奮起することで、自己肯定をしていたんです。そういう経験があるからこそ、今の価値観にたどり着けたんですよね。行動しないと0にもなれないですし、経験を積んだからこそ一回捨てるみたいなところもあって。やっぱり積み続けると崩れるじゃないですか。だから人生はリセットとスタートを繰り返すようなものかもしれないですね。

Information

『親のお金は誰のもの 法定相続人』
好評公開中!

出演:比嘉愛未 三浦翔平
浅利陽介 小手伸也 山崎静代(南海キャンディーズ) 松岡依都美 田中要次/石野真子/三浦友和

監督:田中光敏 脚本:小松江里子
🄫2022「法定相続人」製作委員会

財産管理の弁護士・成年後見人である城島龍之介(三浦翔平)が、母親・満代(石野真子)を亡くしたばかりの大亀家の前に現れる。大亀家は三重県伊勢志摩で真珠の養殖を営む家で、遺産相続や、父・仙太郎(三浦友和)による時価6億円の「伝説の真珠」が、娘たちの自由にならないことが発覚、巨額な財産を巡る大騒動へと発展。一方で大亀家の三女・遥海(比嘉愛未)は、母を死に追いやった原因は、真珠の養殖を手伝わせた父にあると、恨みを募らせるも、そんな父に認知症の疑いが発覚。「伝説の真珠」の争奪戦が繰り広げられる……。

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比嘉愛未

1986年6月14日生まれ。沖縄県出身。2005年、映画『ニライカナイからの手紙』で俳優デビュー。07年、NHK連続テレビ小説「どんど晴れ」でヒロインを演じる。主な出演作に、映画『カノン』(16)『先生!、、、好きになってもいいですか?』(17)『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18)『大綱引の恋』(21)、『吟ずる者たち』(21)、ドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(08~17/CX)、大河ドラマ「天地人」(09/NHK)、「DOCTORS~最強の名医~」シリーズ(11~23/EX)、「TWO WEEKS」(19/CX)、「レンタルなんもしない人」(20/TX)などがある。近年では「にぶんのいち夫婦」(21/TX)、「推しの王子様」(21)で主演を務め、「日本沈没-希望のひと-」(21/TBS)「純愛ディソナンス」(22/CX)、「作りたい女と食べたい女」(22/NHK)、「大病院占拠」(23/NTV)、「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」(23/EX)に出演。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:AYA,STYLIST:HITOKO GOTO