興行成績云々よりも作家性を大事にしたかった

――共演してみて、お互いの印象はいかがでしたか。

ミネオ 脚本を読んだときに、ハジメとミツは噛み合ってないと思ったので、あまり役について話し合わなかったんです。妻について知りたいというハジメの感情を大事にして演じたのですが、小沢さんは初共演なのに気まずさがなくて、すごく居心地が良かったです。

小沢 うれしいですね。私もミネオさんに居心地の良さを感じました。あと、ミネオさんは最初から最後まで出ずっぱりなのに、『ホゾを咬む』の撮影時期に他の作品も重なっていて。『ホゾを咬む』を3日撮ったら、4日間別の作品に行って、また3日間は『ホゾを咬む』を撮るみたいな、そういうスケジュールでやってらっしゃったから、すごく疲れていらしたと思うんです。でも疲れた素振りは1ミリも見せずに、いつも明るく楽しく現場にいてくださったのが、プロデューサーとしても助かりましたし、俳優として妻を演じるにあたっても、愛情が湧きました。

ミネオ 確かに今思い返すと大変でしたね。コロナ禍というのもあって、今までで一番、体調に気をつけました。しかも、もう一つの作品は眼帯をして、デカい斧を持ってという全然違う役をやっていたんです(笑)。だから『ホゾを咬む』の現場に戻ったときは、ハジメは静かにしなきゃ駄目なんだと切り替える必要がありました。

――現場の雰囲気はいかがでしたか。

ミネオ すごく和やかでした。撮影監督の西村さんは気さくで優しい方で、ベテランだけあってどしっと構えてらっしゃる。カメラマンの方が時間に追われて焦っている姿を見ると、演じる側にも影響するんですよね。西村さんはカメラを構えているだけでも安心感があって、自由に動くことができました。

――モノクロで撮るのは最初から決まっていたんですか。

小沢 実はカラーで撮っているんです。メインスタッフだけでラッシュを観たときに、正直ピンとこないところがあって。どうしようかと考えていたら、西村さんから「モノクロで観てみたら良い感じだから、試しに観てみて」と言われて。モノクロで観てみたら、まさに髙橋監督がやりたいと思っていたことが伝わるなと感じて、モノクロになりました。

――モノクロによって独特な画面構成が際立ちますよね。

小沢 そうなんです。あと髙橋監督は、人物の心の動きや時間の流れ、二人の間に生まれる空気やリズムを撮っているので、カラーだと情報が多くて見にくくなるんです。それがモノクロになると余計な情報が遮断されて、見せたいものが浮き彫りになるんですよね。

――プロデューサーとしては、モノクロで公開するのは大きな賭けですよね。

小沢 髙橋監督からも、「僕としてはモノクロがいいなと思うんですけど、興行面ではマイナスになるところも出てくるかもしれません」と言われて。もちろんプロデューサーなので興行のことも考えなきゃいけないんですが、『ホゾを咬む』に関しては、いろんなチャレンジをしています。たとえば西村さんと音響効果の小川武さんはキャリアも実績もある方々ですが、新人監督と一緒に作るのもチャレンジです。先ほどお話に出た“間”にしても、なかなか普通の映画ではやらないことを髙橋監督もチャレンジされています。興行成績云々よりも髙橋監督がやりたいこと、作家性を大事にしたかったので、モノクロで公開するという決断をしました。

――初めて完成した作品を観たときは、どんな感想でしたか。

ミネオ 演じていたときは、間が長いなとか、相手の返事が遅いなとか思ったりしていたんですが、完成した映画を観ると、すごく自然で。あと変な人だと思いながらハジメを演じていたのですが、他のキャラクターのほうがインパクトが強くて。意外とハジメが普通に見えてくるというか。周りに振り回されている感じが上手く出ていて、周りのキャストの方々に助けられたなと思いました。

小沢 監視カメラを通して妻を見つめ続けた先に何かを獲得して、ハジメの中に起こる変化が、決して派手ではないんですけど、確実に変わっていくのが映像から受け取れるのがすごく面白かったです。最後まで映画を観たときに、ハジメは何てかわいらしくて、愛おしいんだろうと一観客として思いました。その変化が良いものなのか、悪いものなのかは分からない。観た人それぞれに委ねられる作品です。