美容師を辞めて、演技未経験で劇団に所属

――ミネオさんのキャリアについてお伺いします。どういう経緯で俳優を目指したのでしょうか。

ミネオ もともとは美容師だったんですよ。高校生のときに漠然と芸能界に憧れていたんですけど、それを親に言ったら、めちゃめちゃ反対されて。それで美容学校に通って、一年半ぐらい美容師をやっていたんですが、やっぱりお芝居をしてみたいと思っちゃったんですよね。

――学生時代に演技経験はあったんですか?

ミネオ 高校生のときにエキストラ事務所に入っていた時期があったんですが、2、3回しか現場には行ってないですし、お芝居の経験もありませんでした。でも、お芝居をしてみたいという欲が出てきちゃってからは、美容師の仕事が楽しくなくなって、「なんで知らない人の髪の毛を洗ってんだろう」って(笑)。これだと絶対にサービス業としてダメだなと思って、21歳のときに美容室を辞めて、旗揚げする劇団を探したんですよ。新しい劇団だったら、演技経験がなくても舞台に立てると思ったんです。それで旗揚げした劇団が見つかったので、そこに所属して、半年後には舞台に立っていました。

――発声とかは大丈夫だったんですか?

ミネオ もともと声はデカいほうだったんですけど、滑舌のほうが悪くて……。初舞台のときに、美容室時代のお客さんを一人呼んだんですよ。よくモデルをやってくれた方なんですが、終演後に感想を聞いたら、「初めてミネオさんが何を言っているのか分かりました」と言われました。

小沢 (笑)。

――ミネオさんのように演技未経験の劇団員は他にいたんですか?

ミネオ 学生演劇をやっていた人たちが集まった劇団で、僕だけが全くの素人でした。ただ初舞台の1週間後に、その劇団を辞めちゃったんです。

小沢 ええ!?

ミネオ ちょっと劇団あるある的なことで思うことがあり……その後、別の劇団に所属しました。

――もともと舞台はお好きだったんですか?

ミネオ ちゃんと舞台を観たのは美容師を辞めてからですね。初めて観た劇団がキャラメルボックスだったんですが、僕には合わなくて。早くも美容師を辞めて後悔したんですが、その次に観たのがPARCOプロデュースの『噂の男』で、堺雅人さん、橋本じゅんさん、八嶋智人さんなど錚々たる方が出演していたんです。演出がケラリーノ・サンドロヴィッチさんで、これが自分のやりたかったことだと感銘を受けて、お芝居と向き合うようになりました。

――最初は映像よりも舞台に力を入れていたんですね。

ミネオ 映像に出たいなと思っていたんですが、いきなり出るのは難しいのかなと。まず舞台で演技力をつけてからなのかなと素人ながらに思っていました。

――舞台から映像にシフトするのは、なかなかハードルも高いのではないでしょうか。

ミネオ よく言われるんですけど、確かに、いきなり大きな映画に出るのは難しいです。ただ舞台などを通じて、インディーズ映画の短編などを撮っている方と知り合う機会もあるので、そこから映像に切り替えていきました。劇団には3年ぐらい所属していたんですけど、そこからフリーになって、映像の仕事が中心になっていきました。

――フリーになって俳優活動は順調だったんですか?

ミネオ そうですね。でも30歳の壁みたいなのがあって、その頃は悩みました。でも悩んでいるときに、オファーがあったりして。まだやるかみたいな感じでズルズルきちゃって。今は俳優をやるしかないと覚悟が決まっていますけど、もうすぐ40歳の壁が待っています(笑)。

――ターニングポイントになった作品は何でしょうか。

ミネオ 『Last Love Letter』(2016)という映画です。ちょうど30歳のときに撮った作品で、それが「第11回 田辺・弁慶映画祭」で映画.com賞とキネマイスター賞をいただいたんです。田辺・弁慶映画祭は何か一つでも賞を獲るとテアトル新宿で上映してくれるという副賞があって。それが僕にとって、ちゃんと劇場公開された出演映画でした。連日満員だったんですが、上映期間中に今の事務所の方に「事務所を探しているんですけど」って相談をしたら所属させてもらうことになって。そういう意味でもターニングポイントでした。

――最後に改めて『ホゾを咬む』の見どころをお聞かせください。

ミネオ 観る人を選ぶ映画だとは思うんですが、出てくるキャラクターが、それぞれ何かしら欠けていて、抜けているところがあるんです。それを自分だったり、身の回りの人に照らし合わせて観てもらえると、新しい発見があるんじゃないかなと思います。いつもとは違う視点で映画を眺めてもらえるとうれしいです。

小沢 観る人の視点によって、いかようにも捉え方が変わる作品です。なので一度映画を観て、自分の中で出た答えとは違う視点で、もう一度観てもらいたいです。ハジメの目線、ミツの目線それぞれで観ても、見え方が違うと思いますし、いろんな答えが出せるような、不思議な作品です。西村さんの撮影した素晴らしい構図や奥行き、圧迫感なども楽しんでいただきたいですし、小川武さんによる映画の世界観に沿った遊び心のある音の数々が、一段と不思議な感覚をまとった作品にしています。髙橋監督の若さと鋭さにプラスしてベテランの技術がたくさん加わった映画になってますので、そういうところも楽しんでいただけるとありがたいです。

Information

『ホゾを咬む』
12月8日(金)まで新宿K’s cinemaにて連日14:10〜公開中。12月15日(金)〜12月21日(木)池袋HUMAXシネマズにてレイトショー他全国順次公開

出演:ミネオショウ 小沢まゆ 木村知貴 河屋秀俊

脚本・監督・編集:髙橋栄一
プロデューサー:小沢まゆ
製作・配給:second cocoon
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
🄫2023 second cocoon

不動産会社に勤める茂木ハジメ(ミネオショウ)は結婚して数年になる妻のミツ(小沢まゆ)と二人暮らしで子供はいない。ある日ハジメは仕事中に普段とは全く違う格好のミツを街で見かける。帰宅後聞いてみるとミツは一日外出していないと言う。ミツへの疑念や行動を掴めないことへの苛立ちから、ハジメは家に隠しカメラを設置する。自分の欲望に真っ直ぐな同僚、職場に現れた風変わりな双子の客など、周囲の人たちによってハジメの心は掻き乱されながらも、自身の監視行動を肯定していく。ある日、ミツの真相を確かめるべく尾行しようとすると、見知らぬ少年が現れてハジメに付いて来る。そしてついにミツらしき女性が誰かと会う様子を目撃したハジメは……。

公式サイト

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ミネオショウ

1985年1月19日生まれ。東京都出身。美容師から俳優に転身し、映画、ドラマ、CM、MV等数々の映像作品に出演。近年の出演作品に、映画『クレマチスの窓辺』(永岡俊幸監督/2022)、『とおいらいめい』(大橋隆行監督/2022)、『PARALLEL』(田中大貴監督/2022)、『ラーゲリより愛を込めて』(瀬々敬久監督/2023)などがある。2023年は『ホゾを咬む』と『MAD CATS』(津野励木監督/2021)の2本の主演作を含む複数の出演映画の劇場公開や、ネット配信ドラマの公開を控えている。

小沢まゆ

1980年8月22日生まれ。熊本県出身。映画『少女〜an adolescent』(奥田瑛二監督/2001)に主演し俳優デビュー。同作で第42回テサロニキ国際映画祭、第17回パリ映画祭、第7回モスクワ国際映画祭Faces of Loveにて最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作品に『古奈子は男選びが 悪い』(前田弘二監督/2006/主演)、『いっちょんすかん』(行定勲監督/2018)、『DEATH DAYS』(⻑久允監督/2022)などがある。2022年に初プロデュース映画『夜のスカート』(小谷忠典監督)が劇場公開。出身地熊本県の震災復興映画イベントを主催するなどしている。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI