このメンバーだからこそ作り出せた関係性の良さも映画には映し出されている
――初めて映画の脚本を読んだとき、舞台の脚本との違いは感じましたか。
仲吉 先生のシーンが増えていて、一人ひとりの心情がより細かく描かれていましたし、映像だからこそできる表現がたくさんあるなと感じました。ミクについても、繊細な感情が描かれていて、より性格が深く理解できました。
――ミクに共感できるところはありましたか。
仲吉 ミクはもちろんですが、メインキャラクターの4人全員に共感できました。今回、チヅル役を演じた清田みくりちゃんが、本読みのときに「脳内会議」って言っていたんですけど、その通りだなと思って。それぞれ、いろんな考え方を持っていて、伝え方も違うけど、どの子の意見も共感できるんです。その中で、どの子の意見を大切にしたほうがいいのか、どういう意見を自分は持つべきなのかを考えさせられる脚本だったので、脳内会議という言葉がピンときました。
――映画の脚本も中田夢花さんが手がけられていますが、学校におけるジェンダーの問題について、しっかりと描かれています。
仲吉 今でこそジェンダーレスについての議論は活発ですが、中田さんが元の戯曲を書いて賞を受賞した2019年は、そこまで問題視されていなかったと思うんです。それを当時、高校3年生で包み隠さず書いたのはすごいことだなと改めて思いました。女子高生なら誰しも抱えている悩みなのに、なかなか言えなかった気持ちも映画の脚本には書かれていて、「その悩みを抱えているのは貴女だけじゃないよ」という思いを感じました。
――映画の撮影は、舞台と勝手が違ったと思います。
仲吉 舞台から続投した3人は、限られた狭さの中で演じるという舞台のイメージがついていたので、撮影現場に行ってから話し合いすることが多くて。ミクがプールの中、ココロがプールサイドで話すシーンも、舞台では近かったけど、本物のプールだと思っていた以上に距離があって、テストで気づくことも多々ありました。声が聞こえなかったり、顔が見えなかったりで感情の変化もあり、伝え方も変えなきゃと思って、その都度、山下敦弘監督とどうしたほうがいいか話し合い、どうすれば違和感がないかを探しながら進めていきました。
――ミクの役作りも、舞台と映画では違いましたか。
仲吉 舞台は熱量をお客さんに伝えたかったので、ミクも感情的になって、ココロと本気で喧嘩してワーッと言い返すシーンもあったんです。映画ではリアルな自然さが求められましたし、ミクは堪えるシーンが多くて、ココロと話すシーンはセリフの変更もあったので、言い方も変える必要がありました。なかなか舞台のときのミクが離れなかったので、どこを変えて、どこを舞台と共通点にするかも山下監督と何度も話し合いました。
――ミクが気持ちを飲み込むシーンも多いですけど、その表現も映画ならではですしね。10日間の撮影期間は、同じ建物で過ごして、合宿のような生活だったそうですね。
仲吉 同世代の子たちというのもあって、一日中一緒に過ごして、みんなでお風呂に入って、すごく楽しかったです。このメンバーだからこそ作り出せた関係性の良さも映画には映し出されていると思います。
――山下監督の演出はいかがでしたか。
仲吉 話しやすくて、優しくて、演じる側の気持ちを優先して考えてくださるんです。何か違和感があったときは話し合って、「ここのセリフはこういう感じにしてみよう」と柔軟に意見を聞いてくださるので、すごく相談しやすかったです。ユーモアにあふれた方なので、アドリブで面白いシーンもたくさんあって、毎日いろんなことを学ぶことができました。
――特に印象的なシーンはどこでしょうか。
仲吉 ココロに自分の気持ちを頑張って伝えるシーンで、舞台から一番変わったシーンでもあります。ここに至るまでのミクは感情を抑えていて、やっと自分の意見を言って、一歩踏み出すので、心に残っていますね。山下監督とも何度も話し合いました。
――改めて映画の見どころをお聞かせください。
仲吉 この映画は主役が決まっていません。観る人の立場や、そのときに抱えている悩みなどの気持ちによって、主役が変わると思うんです。だから何度か映画館に足を運んでいただいて、主役を変えて観ると面白い作品です。一人ひとりが女子高校生なりに頑張っている姿を見ると、世代や性別を問わず、背中を押してくれるはずです。一歩踏み出すのに悩んでいる方、ジェンダーレスの問題に直面している方はもちろん、そうでない方でも共感できる映画なので、たくさんの方に観ていただきたいです。