生き方にまで影響を与えた『初めての女』での経験

――初めて『初めての女』の脚本を読んだときは、どんな印象を受けましたか。

三輪 菊に関して言うと、私とタイプが全然違うなと。私はどちらかというと自分の気持ちを人にぶつけちゃうというか、ストレートにものを言うほうなんですが、菊は内に秘めたものがあって、思っていることを相手に伝えられない。映画の終盤で、ようやく孝作に思いを伝えますが、それも遠回しな表現で、全てを言葉にした訳ではないですからね。

――自分に近い役と、正反対の役では、どちらのほうが役作りしやすいですか。

三輪 やっぱり自分に近いほうが作りやすいというのはありますが、違うからこそ、いろいろ勉強して掘り下げていったので、すごくやりがいを感じました。

――映画では明治末期から大正初期が描かれていますが、言葉遣いも難しかったのでは。

三輪 難しかったですね。小平監督とたくさん話し合いましたし、クランクインの前にリハーサルもあったんですが、キャストと小平監督ですり合わせをしました。

――日本舞踊やお花などで学んだ所作は活きましたか?

三輪 活きました。そこはしっかり見せなきゃいけないところだなと思ったので、日本舞踊の先生に改めて座り方や、ふすまの開け方などを教えてもらいました。本番でも指先まで集中して、美しい所作をするように臨んだのですが、「こうしなきゃいけない」と頭で考えるのではなく、自然とできるようにと事前に練習もしました。

――撮影は順撮りだったんですか?

三輪 監督が「順撮りのほうが気持ちも作りやすいんじゃないか」と仰ってくれて、できる限り順撮りにしてくれました。

――撮影は実際に瀧井孝作の出身地である飛騨高山で行われたそうですが、孝作が菊を訪ねるシーンで度々登場する建物は、「かみなか旅館」という今も営業している旅館だそうですね。

三輪 今は旅館ですが、その当時は本物の遊郭だったそうです。そこにいるだけで、「ここで芸者さんが接待していたんだ」と想像が広がって、役に入りやすかったです。

――現場の雰囲気はいかがでしたか。

三輪 同世代の俳優さんが多いのもあって、笑いの絶えない現場でしたし、小平監督もみんなのテンションを上げてくださいました。ただ車の中でロックをかけたりするので、「今は気持ちを作っているのでやめてほしい」と思うときもありました(笑)。

――小平監督の演出ではどんなことが印象に残っていますか。

三輪 全キャストのことを思ってくれて、最後まで親身に向き合ってくれました。ちょっとでもキャストが迷っているのに気づくと、優しく聞いてくれるんです。小平監督を始め、スタッフさん一人ひとりから、みんなで一つの作品を作り上げるという思いの強さを感じました。

――菊を演じる上で、特に意識したことは何でしょうか。

三輪 菊は実在した人物なので、失礼に当たらないように演じないといけないなと思いました。だから事前に瀧井孝作の生涯を辿るなど、自分でできる限りのことを調べて、撮影が始まる前から菊に寄り添うことを意識しました。撮影が始まると、時々、菊が心を開いてくれているなという瞬間や、逆に菊という存在が遠のいてしまうような瞬間もあって。私は霊感がある訳ではないんですが、今ここに菊がいてくれているような不思議な感覚がありました。

――どんなところに注目して映画を観てほしいですか。

三輪 孝作、玉、菊の3人を中心に描かれていますが、それぞれ背負っているものがあって、出会いによって成長していく様を見ていただきたいですね。私個人に関しては実際に三味線を弾いているので、そこにも注目していただけたらうれしいです。

――三輪さん自身、『初めての女』の撮影を通して、どんな気づきがありましたか。

三輪 本当にターニングポイントになった作品で、私自身も成長させてもらい、生き方も変わったと思います。先ほどもお話ししましたが、私はストレートにものを言うタイプだから、自分中心的なところもあったんです。でも菊を演じて、そのときの感情だけで突っ走っちゃいけないなと考えるようになりましたし、人との接し方を大切にしなきゃいけないなと学びました。

――今後のビジョンをお聞かせください。

三輪 年に一回は舞台に出られたらなと思っているんですが、何に関しても作品に携われるのは幸せなことなので、映画、ドラマ、舞台と、いろんな役と出会っていきたいです。

――こういう役をやってみたいというのはありますか。

三輪 菊のように自分とは違った役。たとえば狂気的な役に挑戦してみたいですね。これまでの自分にはない部分をもっともっと出していきたいですし、新しい自分を見つけていきたいです。

Information

『初めての女』
絶賛公開中!

髙橋雄祐 芋生悠 三輪晴香
藤江琢磨 ジャン・裕一 保坂直希 籾木芳仁 大地泰仁
谷口恵太 永瀬未留 石原久 西興一朗

監督・脚本|小平哲兵
脚本|桑江良佳・羽石龍平 プロデューサー|柳井宏輝 撮影監督|仁宮裕 照明|柳田慎太郎
録音|横田彰文 助監督|白田誠哉 編集|増本竜馬 ヘアメイク|塚原ひろの 音楽|杉野清隆
原作|瀧井孝作「俳人仲間」(新潮社) 原作協力|小町谷新子
制作協力|ニューシネマワークショップ
助成|こだまーれ2019市民提案プロジェクト
製作|一般社団法人 高山市文化協会
配給|TRYDENT PICTURES

明治末期。北アルプスの山々に囲まれた地で育った青年・瀧井孝作(髙橋雄祐)は、父親の事業が失敗し丁稚奉公に出され、窮屈な日々を過ごしていた。幼い頃に兄や母も亡くし、寂しい孝作の拠り所は俳句に没頭することだった。そんなある日、西洋料理屋の女中・玉(芋生悠)と出会う。美しい年上の女性の魅力に孝作は惹かれていく。“堤長き 並松月夜 涼み行く”孝作は、心からの玉への気持ちを句にしたためた。玉との距離が縮まったと思っていた孝作だったが、次第に玉の言動や噂から不信が募っていた。そんな折、玉と訪れた店で三味線芸者の鶴昇(加藤菊/三輪晴香)と出会う。鶴昇の端麗でどこか悲しげな姿に心奪われ、玉が孝作の元から去った後、鶴昇にのめり込み始める。今までにない感情に翻弄される孝作は、次第に俳句からも遠ざかってしまう———。

公式サイト
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三輪晴香

1996年1月4日生まれ、滋賀県出身。中学生から演技レッスンに通い、高校1年生で初舞台を経験。以後、舞台を中心に経験を積み、ドラマや映画など幅広く活動。主なドラマ出演作に「トモダチゲーム」(日本テレビ)、「特捜9」(テレビ朝日)、主な映画出演作に『海にのせたガズの夢』(2018)、『あの庭の扉をあけたとき』(2022)など。日本舞踊、三味線、着付け、お酒、書道(六段)など幅広い趣味・特技を持つ。「おとな釣り倶楽部」(テレビ神奈川) にナビゲーターとしてレギュラー出演中。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI