『ヌーのコインロッカーは使用禁止』と『ひとくず』は対になる作品

――『ヌーのコインロッカーは使用禁止』の取材がきっかけで映画『ひとくず』(2020年)が、生まれたそうですね。

上西雄大(以下、上西) はい。『ヌーのコインロッカーは使用禁止』のテーマである発達障害について精神科医の楠部知子先生に取材した時に、虐待の現実をお聞きしました。これは作品にしなくちゃいけないという意義を強く感じ、その日の晩に『ひとくず』の脚本を書き上げて。『ヌーのコインロッカーは使用禁止』の撮影ために用意したスタッフ、クルー、キャストをすべてコンバートして、先に『ひとくず』を撮ったんです。『ひとくず』と『ヌーのコインロッカーは使用禁止』は間髪を入れずに撮影したので、2つで対になる作品と感じています。

――『ヌーのコインロッカーは使用禁止』を作ることになったきっかけを教えてください。

上西 大阪の堺市に山崎宥(ゆう)くんという発達障害の作家がおりまして、その方のお母さんとお話しする機会があったんです。お話を聞いているうちに、僕の中にこの物語が生まれました。最初に舞台作品用の脚本を作ったのですが、すぐに「映像にしたい」という思いが湧き、シナリオを作り直して映画制作を進めました。

――山崎さんは映画のエンディングに登場されていますね。

上西 ご本人に出ていただいています。なお、劇中に出てくるヌーが描いている絵は全て山崎さんからお借りしたものです。

――山崎さんの絵を見てどんなインスピレーションを得ましたか?

上西 色使いにしても、絵の構成にしても、僕らにはない感性を持っていらっしゃって、僕らとは見えている世界が違うんだろうなと思いましたし、宥くんの感性を現実社会につないでいるお母さんの思いにも感動しました。僕の場合、たまたま知り合いになった方から感銘を受けるケースが多いんです。『ヌーのコインロッカーは使用禁止』は、『ひとくず』をご覧になった方達の中に発達障害の活動されている方が多くいらっしゃったので、その人たちから触発されて、最終的には山崎君からインスピレーションを受けたことが大きいです。

――発達障害というテーマを描くにあたっては、繊細な部分もあると思いますが、脚本を書く上で意識したことはありますか?

上西 他の人と違うことを誇張するような作品ではなくて、一つの個性として描くようにしました。宥くんは礼儀正しくて、人間的な魅力に溢れた方で、その魅力をヌーに投影しようと意識しました。

――『ヌーのコインロッカーは使用禁止』の舞台版では、古川藍さんと徳竹未夏さんがダブルキャストで演じられています。

上西 舞台公演にあたり、私と古川と徳竹の3人で、発達障害の方々と触れ合う機会を持たせていただいたのですが、演じてみると同じ脚本なのに二人のヌーの表現がまるで違うんです。どちらも輝きが強くて、両方を観ていただきたい思いがあり、ダブルキャストにしました。映像も両方のバージョンを作りたかったのですが、時間も予算もないので、古川さんに演じていただきました。4月26日から5月7日まで、下北沢でこの映画の舞台公演が決まったので、徳竹版のヌーも観られます。映画とは違う表現と感動があるので、ぜひ楽しんでください。

――古川さんと徳竹さんの演技の違いはどんなところですか?

上西 ひと言で言えば、古川はかわいらしい表現で、徳竹は人間のリアルをより感じさせる表現。この作品は僕の中でもファンタジー色が強い作品なので、古川のかわいい表現が映画作品としては成立しやすかったように思います。

――舞台版はコメディ色が強いそうですね。

上西 舞台はずっと笑わせます。映画で笑わせに行くと、リアリティーが欠けているように観えてしまうけれど、舞台は現実的でなくても成立するので、笑いどころがたくさんあるんです。