普通の生活はしたくないという気持ちがどこかにあった

――お芝居の仕事に恵まれない時期、他の選択肢を考えたこともありましたか。

林 一度だけ、バイト先の焼肉屋に、このまま就職しようかと考えたこともあります。親からも、「いつまで俳優を続けるの?」と言われていましたからね。当時は本当に無名で、演技する場所といったら事務所のレッスンや、セリフのない役でドラマに出るぐらい。この世界にしがみつく理由すらなかったんです。

――それでも続けようと思った理由は?

林 他にやりたいこともなかったですし、普通の生活はしたくないという気持ちがどこかにあって。楽観的な性格なので、まだ可能性があるんじゃないかという気持ちも30%ぐらいあって、どこかゲーム感覚でした。根拠のない自信があったからこそ続けられたんだと思います。

――年齢的な焦りはなかったですか。

林 30歳を迎える前ぐらいに焦りました。世間的に30歳は一つの区切りじゃないですか。それまでに、いろいろな経験をして、何か結果を出さないと、ここからは苦労しかないだろうなと。

――昨年、ミュージカル『刀剣乱舞』(以下、『刀ミュ』)で鬼丸国綱を演じて状況は一変。立て続けに話題の舞台に出演します。

林 『刀ミュ』が決まるまでは、いろいろと圧し潰されそうな時期だったので、本当にありがたかったです。ただ決まったときは人気舞台ですし、ダンスの経験もなかったので、不安も大きかったですね。稽古も厳しかったですから、一切浮かれることなく臨んでいました。

――ある程度の年齢で結果を出したからこそ、客観的に自分を見られる部分もありますか。

林 今のお仕事の状況は、僕にとっては『刀ミュ』バブルなので、オファーをいただけるのが当たり前だとは思っていないですし、人に繋いでいただいた縁ばかりです。だから焦りのほうが大きいんですが、なるべく冷静に見るようにしています。

――今後は舞台と映像どちらも力を入れていくのでしょうか。

林 まだまだ選ぶ立場ではないので、しっかりと実力をつけて、いただける仕事は全て全力で取り組んでいきたいです。

――『ペテン狂想曲』を通じて、映像作品ならではのお芝居の醍醐味はどんなときに感じましたか。

林 日常と同じような空気感で芝居をするので、舞台よりも生々しいんですよね。僕は舞台でもリアルベースで役作りを考えるので、表現がちっちゃくなりがちで、それを膨らませることに時間をかけることが多いんです。でも映像の場合は、日常に転がっているものをそのまま活かすことができるんですよね。とはいえリアルなままではダメで、手探りではあったんですが、自分なりに映像特有のフレームの収まり方などを考えました。初めてのことばかりで大変でしたが、振り返ってみると楽しかったですね。

Information

『ペテン狂想曲』
2024年7月5日より、池袋HUMAXシネマズほか全国ロードショー

林光哲 武本悠佑
松田将希 山縣悠己 大滝紗緒⾥ 三好大貴 蔵田尚樹 石川鈴菜
本間優人 阿部冬夜 ひと:みちゃん 石田優奈 大野泰広

監督・脚本:松本了
🄫2024「ペテン狂騒曲」製作委員会/ユーフォリア

ハイエナと呼ばれた弁護士・坂木誠人(林光哲)と、裁判に勝つためには手段を選ばない検事・我妻泰史(武本悠佑)。二人が真っ向から対決した殺人事件裁判は無罪判決で坂木の勝利に終わった。時の人となり栄光を掴み取った坂木弁護士。一方、エリートキャリア組から脱落し地方へ左遷された我妻検事。『驕れる者久しからず』。数年後、経営失敗により破産し、弁護士資格を失った坂木は借金取りから逃げ回る日々を送っていたが、かつて坂木が弁護した殺人事件の被疑者・内田光流(山縣悠己)の甘い誘いにより、マルチ詐欺に参加する。そんな坂木を、左遷から戻った我妻が虎視眈々と狙っていた。

公式サイト
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林光哲

1990年10月7日生まれ。千葉県出身。2012年、ドラマ「ぼくの夏休み」で俳優デビュー。以降、舞台を中心に活動。2023年に出演したミュージカル『刀剣乱舞』の鬼丸国綱役で脚光を浴びる。主なドラマ出演に「この世界の片隅に」(18)、「集団左遷」(19)。主な映画出演に『時がとまっとる』(14)、『任侠学園』(19)、『Hight & Low the worst』(19)、『サイレント・トーキョー』(20)など。7月25日に初演を迎える舞台『転生したらスライムだった件』-魔王来襲編&人魔交流編-』にヨウム役で出演。

PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI