ハプニングが起きるのも舞台ならではの醍醐味
――笑いに関するプレッシャーはありましたか。
高田 稽古期間中、元吉さんに「ここが全然面白くできないんですけど」と聞いたら、「スベりきることが大事だよ」と。「中途半端にやってスベるのが一番良くないから、全力でやって大スベりしよう。そういう気持ちで一生懸命やっていたら絶対にお客さんが笑ってくれるから」と仰ってくださって。それで自分なりに、ここをブラッシュアップしたら面白くなるんじゃないかとイメージトレーニングして、コリーのコメディエンヌな部分を引き出していきましたし、本番を通して、お客さんの笑い声に教えてもらうことも多かったです。
――本番中、お客さんの笑い声は聞こえるものなんですか?
高田 ちゃんと聞こえます。一人ひとりの顔を見るまでの余裕はなかったんですが、ここで笑うんだというのは、しっかりと脳裏に焼き付けました。
――初日と千秋楽を比べて、どんなところが変化したと感じましたか。
高田 コリーとポールはたくさんケンカをしますが、その度合いが全然違っていて、より深みのあるケンカに変化していきました。公演が始まった当初のコリーはガミガミ言って、すごく口うるさくて、ポールとかみ合わないところを楽しむのが醍醐味だったと思うんです。千秋楽に近づくにつれて、、ポールのセリフを受けられるようになり、コリーの言い回しも自然と変化していきました。私の母が、初日、中日、千秋楽と3回観にきてくれたんですが、「初日のコリーは若くてキーキーしていたけど、後半は深みもあって、感動したよ」と言ってくれました。
――しっかりと稽古期間を経ていても、本番で大きく変化するんですね。
高田 そうなんです!1ヶ月半も稽古をやっていたのに、まだ変化するんだと。自分でも分かるくらいコリーは変わりましたし、その日その日によっても違うんですよね。
――今回の再演で、どういうことを楽しみにしていますか。
高田 余裕は全くなくて、あの膨大なセリフ量を再び覚えられるのかという不安と、先ほどお話しした通り、初舞台のときのコリーを超えなきゃいけないプレッシャーが大きいです。2年前に観てもらった方にも新鮮に感じてもらいたいですし、共演者の方々にも成長したなと思ってもらいたいですしね。楽しみで言えば、全国を17ヶ所も巡演するので、各地で美味しいものを食べられることです(笑)。
――舞台ならではのやりがいはどういうところに感じますか。
高田 映像は1回こっきりなので、ベストの状態で弾ける、成果を見せるのが大切で、煮詰めることって少ないんですよね。いわば単発のエネルギーが映像だと思っていて、だからこそ奇跡の瞬間もありますし、自分でも痺れるような感情を映像に残せたなと感じることもあります。それとは対照的に舞台はめちゃくちゃ変化するんですよね。同じことをやっているようで、一切やっていなくて。『裸足で散歩』で言うと、コリーと向き合う時間がたくさんあるのが面白いです。ハプニングが起きるのも舞台ならではの醍醐味ですね。映像は基本的にNGを放送しませんが、舞台はハプニングが起こったら、ハプニング込みで役として対処して、次に持っていかないといけないからゾクゾクします。どうやってハプニングをベストな切り替えしにしようか、みたいな。
――実際に前回の『裸足で散歩』で、そういうハプニングはあったのでしょうか。
高田 ドアノブに洋服が引っかかって取れなくなっちゃったことがあったんですが、そこで流れを止めずに、コリーのままで「ポール、取ってよ!」と言って、仕切り直したことがあって、すごく楽しかったです。それって稽古を1ヶ月半に渡って積み重ねて、信頼関係もできているからこそできることなんですよね。それがないと、上手くごまかしても身内笑いになっちゃうんです。二人だけが面白くても意味がなくて、お客さんを巻き込んでクスクスさせる瞬間があるのも舞台の面白さです。