営業職はゲームをやっているような感覚で楽しかった
――ここからはキャリアについてお聞きします。どういうきっかけで歌手になろうと思ったのでしょうか。
岸 小さい頃から歌うのが好きだったんですが、歌手を目指していたわけではなかったんです。きっかけは中学1年生のときに、親父が交通事故で亡くなってしまったんですよね。そのときにめちゃくちゃ音楽に救われていたことを曖昧ながら覚えていて。亡くなってから3、4ヶ月の記憶はないんですが、その頃に聴いていた音楽だけは覚えているんですよ。具体的にアーティストを挙げると、元EXILEのボーカリストだった清木場俊介さんで、その流れでEXILEさんも好きになって。何の面識もない僕に、曲を通して元気や生きる理由を与えてくれるアーティストはとんでもない存在だなと。そこから漠然と、いつか大勢の人たちに歌を届けたいという気持ちがありました。
――それで2010年にLDH主催のオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION 2」を受けたんですね。
岸 その前年に「歌スタ!!」という番組のオーディションを受けたんですが落ちてしまい、その直後ぐらいに「VOCAL BATTLE AUDITION 2」の情報を見つけて。それが「オーディションに参加すると、ATSUSHIさんとHIROさんに会える」みたいな文言だったんです。
――オーディションはファイナリストまで残り、それをきっかけにLDH所属になります。
岸 4年間ぐらい所属しました。今でこそ話せますけど、当時は苦痛でした。なぜかというと、僕自身が幼稚で、あまりにも集団生活に慣れていなくて。歌も上手くなかったし、ダンスもできないのに、プライドだけは高くて、口だけ達者みたいな。思春期の自分に「駄目だぞ」と言ってくれた場所がLDHだったんですが、デビューできずに辞めているので、20代前半まではめちゃくちゃ恨んでいました。まだまだデビューできるような人間じゃなかったし、ありがたい経験をさせてもらったと思えるようになるまでは時間がかかりましたね。
――当時からソロでやりたい気持ちが強かったのでしょうか。
岸 今GENERATIONS from EXILE TRIBEで活躍しているメンバーと一緒にグループ候補生という位置付けでレッスンに励んでいたんですが、僕は清木場さんやTAKAHIROさんが好きだったから、「踊りたくない」とか言っていたんですよ(笑)。今考えたらあり得ないんですが……。
――どうしてLDHを離れようと思ったのでしょうか。
岸 今でもLDHに所属していた頃が一番つらい時期だったと思いますし、このままいても自分はどうにもならない、次の道に行こうと思って辞めて、会社勤めを始めるんです。ただ後ろ向きではなく、前向きな気持ちだったんですよね。当時のLDHはイケイケでしたから、自分から辞めるという選択は信じられないことでした。でもLDHを辞めたことが非常にプラスになったおかげで、今でも僕は決断が早いんです。
――大学在学中に会社勤めをしていたんですか?
岸 そうです。早稲田大学の通信だったので、昼間は時間があって、リクルートという会社で派遣社員として働いていました。
――その頃も音楽活動は続けていたんですか?
岸 はい。夜はライブハウスで歌っていたので、ギターを背負って出社することもあって。同じフロアの人は理解してくれていたので、バリバリ仕事をやった後にライブハウスに行って、スーツのまま腕まくりをしてライブをするみたいな生活をしていました。
――すごいバイタリティですね。
岸 「人生で一番のターニングポイントは何か?」と聞かれたら、僕はLDH所属でも『宇宙戦隊キュウレンジャー』出演でもなく、迷わず「リクルートライフスタイルで働いていたこと」と答えます。20歳か21歳で入社したんですが、それまで芸能界しか知らなかったので、面接も私服で行ったんですよ。確か40人ぐらい面接に来ていたんですが、僕以外は全員スーツで、派遣のスタッフさんも僕を見て「え?」みたいな表情を浮かべていました。
――私服でも面接はOKだったんですね。
岸 リクルートの面接担当者が来て許可してくれました。僕が最後の面接だったんですが、その方が僕の顔を見た瞬間、「君は売れると思う」と言ってくれたんです。僕は何を思ったか、芸能界で売れると言われたと勘違いして、「これからも音楽を頑張ります!」と答えたら、「そうじゃない。営業で売れると思う」と(笑)。結局、その面接で採用されたのは僕だけだったんですが、その日に、その方が一緒にスーツを買いに行ってくれて、一式を買ってくれたんです。それで「明日からうちで働こうと」と。
――初対面なのにですか?
岸 そうです。その方とは今も仲良くさせていただいていますし、尊敬する先輩です。業種は法人営業だったんですが、翌日買ってもらったピカピカのスーツで出社して。それから2週間ぐらいは勉強だけする期間だったんですが、初めて知ることばかりで楽しくて。実際に営業を始めて1、2ヶ月で、そこの法人部門でトップになったんです。
――すごいですね!
岸 芸能界は努力と結果が比例しないことが多いんですが、営業は人よりやったら絶対に伸びるんですよね。ゲームをやっているような感覚で超楽しいし、みんなが褒めてくれる。それまで褒められたことがなかったからうれしいし、先輩も優しいしで、一瞬音楽を忘れちゃうぐらい営業に没頭しました。そのときに人との会話やメールの文面など、社会人として当たり前の一般常識を教えていただきました。人との繋がりの大事さを学んだのもリクルートですし、その経験がなかったら今こういうことになってないと思うので、めちゃくちゃ感謝しています。