お芝居を経験しているからこそ、台本や映像から読み取るものが立体的になった

――充実した会社勤めを、どうして一年で辞めたのでしょうか。

岸 このままリクルートに新卒で入ってほしいと言われたんですが、ある程度は営業で結果を出したし、まだ大学3年生だったので、会社員になるのは今じゃなくてもいいなと思ったんです。当時のリクルートの社長に仲良くしてもらっていたんですが、「一旦、会社を辞めて芸能界やってもいいですか?」と聞いたら、「いつでも戻っておいで」と言ってくれたので、「じゃあ辞めます」と。辞める代わりに、自分の中で制約をつけないと今までと変わらないと思って、そのときに一番自分がやりたくないと思っていたことをやろうと考えたんです。それがお芝居だったんですよね。それで最初に受けたオーディションが『宇宙戦隊キュウレンジャー』でした。

――どうしてお芝居が嫌だったのでしょうか。

岸 LDHにいたときに『あたっくNo.1』という劇団EXILEの舞台に出たんです。太平洋戦争を舞台に、潜水艦乗組員たちの姿を描いたストーリーなんですが、僕は同性愛者の役で丸坊主にしなくてはいけなかったんです。共演の男性とキスを何度もしてという稽古が毎日続いて、精神的にも肉体的にもきつかったんですよね。当時、二十歳だったので、丸坊主のまま成人式に参加して。その結果、お芝居が嫌になったんです。

――リクルートを辞めて、すぐに芸能事務所に所属したんですか。

岸 偶然って面白くて、リクルートを辞めると伝えた日に飲みに行った場所に、たまたま面識のあった芸能事務所の方がいて、その横にフジテレビのプロデューサーさんがいらっしゃったんです。そのプロデューサーさんがLDH時代の僕を知ってくださっていて、「夏にお台場でイベントがあるんだけど、そこでアイドルをやらないか?」と声をかけてくれて、お台場冒険王で来場者の方々を熱中症から守るユニット「ミストマン」に参加することになったんです。そしたら芸能事務所の方が、「ミストマンをやるなら、うちに所属しなよ」と言ってくれて。

――ドラマみたいな巡り合わせですね。

岸 ミストマンのメンバーには、今も仲良しのEXIT兼近や古屋呂敏くんもいました。その期間にフジテレビの「痛快TV スカッとジャパン」に出演したんですが、それを観ていたスーパー戦隊シリーズの関係者が、新シリーズのオーディションを受けてみないかと直々に声をかけてくださったんです。それが『宇宙戦隊キュウレンジャー』でした。

――全てが数珠繋ぎのようなエピソードですね。久しぶりのお芝居はいかがでしたか。

岸 一度芸能界を辞めた人間だったので覚悟が違いましたし、ちょっとずるいかもしれないですが、いつでもリクルートに戻れるという気持ちもあったので、誰よりも強気でやっていこうと思えたんです。そういう気持ちで臨んだら、すごくお芝居が楽しくて。俳優業もいいなと思いましたし、ずっと音楽は続けていたので、名前を知ってもらうためにも『宇宙戦隊キュウレンジャー』は大きかったです。

――お芝居を経験したことで、曲作りで活きている面はありますか。

岸 たくさんあります。今回の映画にしても、お芝居を経験しているからこそ、台本や映像から読み取るものが立体的になりました。

――今回、初の映画主題歌を担当しましたが、新たな発見はありましたか。

岸 僕は思いきり文系なんですが、今回のように注文があっての曲作りの場合、理系脳で作れるんですよね。言いたいことは何なのか、問題提起はどこで、どんなフックがあって、何をしたらこうなるのか。すでに素材が用意されているから、論理的に組み立てられるんです。それは決して思いがないわけではなくて、思いを入れた上で、理系っぽい答えを導いて曲を作れるから、自分は作家脳なんだと思いました。

――改めて完成した『追想ジャーニー リエナクト』を初めて観たときの感想をお聞かせください。

岸 初めての映画主題歌だったので感慨深かったですし、映画を観終えた後に、ちゃんと作品を思い出せる歌詞だったなと。映画に託された思いに寄り添いたかったので、もう1回映画を観ているような曲になって良かったなと思いましたし、松田凌くんを始め、みなさん素敵なお芝居をされていて感動しましたし、この映画に携わることができて光栄だと心から思いました。

Information

『追想ジャーニー リエナクト』
渋谷 HUMAX シネマ、池袋シネマ・ロサほか全国公開中!

出演:松田 凌 樋口幸平 福松 凜 新谷ゆづみ 高尾楓弥(BUDDiiS) 宮下貴浩 根本正勝 / 渡辺いっけい

監督:谷 健二
脚本:私オム
主題歌:「表紙絵 -samune-」岸 洋佑
配給:S・D・P
製作:映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員会
©映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員会

次回作の筆が一向に進まない悩める脚本家の横田雄二(渡辺いっけい)の元に差出人不明のメールが届く。メールには「退行睡眠 失った記憶を取り戻し現代人のストレスをなくします!」の一文。横田は退行睡眠を使い30年前の自分に会い、助言し鼓舞することで、売れる脚本家へと導こうと試みる。一方、過去の横田(松田凌)は描いていた自分の理想像とかけ離れた自分に当惑するものの、未来から来たと言う自分の勧めに応じ、演劇仲間である峯井(樋口幸平)、中村(福松凜)と固く結んだ約束や、自分のファンである麻美(新谷ゆづみ)との出会いを契機として分岐する新たな世界線を辿ることになる。選ばなかった選択を過去の自分に選ばせることで、物語は追想の域を超えて展開し始め、クライマックスへと向かっていく。果たして横田は自身の手で未来を変えることができるか?

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岸 洋佑

2010年、LDH主催のオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION 2」に参加しファイナリストとなる。2017年、『宇宙戦隊キュウレンジャー』で俳優としてテレビドラマデビュー。2018年12月5日、ミニアルバム『走りたいわけじゃない』でメジャーデビュー。2023年10月28日、「ARTISTS LEAGUE Grand-Prix 2023」優勝。現在、両A面2楽曲を毎月配信リリース中。

PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI