小さな結果でもしがみついてしまう主人公に共感した
――横田は脚本家ですが、共感するところはありましたか。
松田 自分の才能を信じたいけど、信じられない自分もいて。なかなか結果が出ない中、小さな結果でもしがみついてしまうところは理解できるなと思いました。自分が好きな人たちに評価をされて、勘違いが生まれてしまうというところも共感できました。横田は自分の実年齢に近い役柄なんですが、「この人たちが言ってくれているから俺は大丈夫だ」という若さゆえの自己正当化や気持ちのおごりは、僕がもう少し若かったときに感じたことでした。
――お客さんの声よりも、肯定してくれる友人の言葉を信じる、みたいなことでしょうか。
松田 近いと思います。僕個人の考えとしては、もちろんお客様の言葉も大切ですが、その意見に寄り添い過ぎると、俳優としての芯みたいなものがブレかねないと思うんです。かと言って、この世界で一緒に戦っている仲間の意見まで無視してしまうと、自分だけのエゴになってしまう。本当に仲の良い友人は建前を言わないと思いますが、時には悩んでいる相手を安心させるための言葉もかけてくれる。そこに若い頃は甘えてしまうんですよね。今は地に足もついて、友人の言葉も冷静に受け止められますが、若い頃の僕は横田のように、自分の世界と周りの評価のギャップなど、いろんなものと戦いながら、がむしゃらに毎日を生きている感覚でした。
――前作の『追想ジャーニー』もそうでしたが、『追想ジャーニー リエナクト』は舞台的な要素の強い映画です。これまで出演した映像作品との違いはありましたか。
松田 映像作品は、ちょっとした機微や余白を演劇よりも想像してもらいやすいんです。ところが今回は演劇チックに映画のお芝居を作るので、難しいなと感じました。たとえば麻雀を題材とした作品があったとして、映像だったら雀荘にロケに行って、実際の雀卓と牌を使って、麻雀を打つことができますが、演劇は小道具などで表現します。そういう時間の切り取り方を、映像作品はリアリティがあるように描けるじゃないですか。でも『追想ジャーニー リエナクト』は舞台上で、時間経過は照明などで区切って描くから、演劇的な物語の進め方が多いんですよね。映像と舞台の要素が入り混じっているから、どういうふうに演じればいいのか悩んだんですが、それが面白くもありました。その面白みを、いっけいさんを始めとする演者の皆様と楽しめたのは、この作品の醍醐味の一つでしたね。
――改めて谷監督の演出はいかがでしたか?
松田 前作でご一緒したときから感じていたんですが、判断が早くて迷いがないんです。ちゃんと谷監督の頭の中でイメージができあがっているからだと思うんですが、役者や撮影クルーに対する指示も的確なんです。そのスピード感に乗っていくと、僕たちも動きやすいし、無駄がないんですよね。今回は撮影期間が短かったので、スピーディーな演出は大事なことでしたし、信頼の置ける方だなと改めて感じました。