下北沢のザ・スズナリで舞台『URASUJI』を観て役者を志した

――先ほど中学生から舞台を観ているというお話がありましたが、きっかけは何だったんですか。

松田 叔母が映画、演劇、音楽、ファッションなどのカルチャーに造詣が深くて、自分の世界観を持っている人なんです。海外旅行で何十カ国も足を運んでいて、昔からかっこいいなと思っていたんですよね。うちは母子家庭で、母親は僕が世界で最も愛する人なんですが、叔母は父親みたいな存在でした。その叔母が、僕が14歳のときに「舞台を観に行かないか」と誘ってくれて、それをきっかけに観劇にハマりました。母親もそういうことに理解があったので、大人計画や過去にいっけいさんが在籍していた劇団☆新感線など、いろんな舞台を観させていただきました。

――役者を志したのは、いつ頃ですか。

松田 高校2年生のときに、叔母が東京に行って舞台を観ないかと誘ってくれたんです。ずっと東京に行きたかったので二つ返事で叔母と東京に行くことになりました。そのときに下北沢のザ・スズナリに行ったんです。

――いきなり小劇場ですか。

松田 下北沢が演劇のメッカであることは知っていたので、やっとスズナリで舞台を観られるんだとワクワクして観劇したのが、深沢敦さんとBARBEE BOYSの杏子さんがやられている『URASUJI』という作品でした。そのときは倉科カナさんがゲストで出ていたんですが、あまりの衝撃に、その日に俳優になろうと思って、すぐに母に電話をして、「東京に行って俳優になります」と伝えました。

――それまで観た舞台と何が違ったのでしょうか。

松田 それまで僕が観てきた舞台に比べると、どこよりも小さな会場で。確か桟敷のど真ん中で前から2番目の席だったと思うんですが、桟敷で観るのも初めてでしたし、役者さんの涙や汗が肉眼でばっちり見えて。目の前で大人たちが、本気でお芝居している姿が衝撃的で。僕の心の何かを動かし始めて、止められなくなったんです。そんな感情になったのは後にも先にも、この日だけなんですが、その気持ちを大切にしたいと思ったんですよね。だから母親に電話して、「観る側だと思っていたけど、僕は俳優の道を進みたい」と伝えました。

――それまで、どんな進路を考えていたんですか。

松田 沸々と役者への興味は湧いていたと思うんですが、進路を決めなきゃいけない時期だったので、現実的なことを考えて、服飾や美容の専門学校に進学しようかとオープンキャンパスにも行きました。ただ本当にやりたいことかと聞かれるとそうではなくて。専門学校はお金もかかるし、どうしようかと悩んでいるときに『URASUJI』と出会ったんですよね。

――当時の下北沢は今よりも演劇の匂いが濃厚でしたよね。

松田 今よりもサブカルチックで、夢さえもその辺に落ちているような、匂い立つような、独特な雰囲気がありましたよね。それが夢を駆り立てた要因の一つになったのかもしれません。

――お母さんと叔母さんは、松田さんが役者を目指すことに賛成だったんですか。

松田 母親は反対でした。叔母は「いいんじゃないの」と言ってくれたんですが、最終的に反対されて。それでも僕は行きたくて、情熱で押し切ったら、それを待っていたみたいなんです。二人に反対されて諦めるんだったら、それまでだけど、それを乗り越えてきたら素直に送り出そうと思ってくれていたようで。もともと僕は頑固で一度決めたら止められないタイプではあったんですが、「そこまで凌が言うんだったら挑戦してきなさい」と背中を押してくれました。

――素晴らしいご家族ですね。最後に改めて『追想ジャーニー リエナクト』の見どころをお聞かせください。

松田 人生には、いろいろなターニングポイントがあります。生きていく中で、誰かと触れ合うことを拒んだり、自分と向き合えなかったりという瞬間は誰しもあります。映画では、そんな横田雄二の人生にスポットが当たっていますが、観てくださったお客様にもスポットが当たるような作品だと思うんです。連絡が途絶えていた友達に連絡してみようとか、奥さんや子どもに感謝を伝えるとか、自分を見詰め直すきっかけになるはずなので、まずは映画館に足を運んでいただいて、何かを感じ取っていただけたらうれしいです。

Information

『追想ジャーニー リエナクト』
渋谷 HUMAX シネマ、池袋シネマ・ロサほか全国公開中!

出演:松田 凌 樋口幸平 福松 凜 新谷ゆづみ 高尾楓弥(BUDDiiS) 宮下貴浩 根本正勝 / 渡辺いっけい

監督:谷 健二
脚本:私オム
主題歌:「表絵紙 -samune-」岸 洋佑
配給:S・D・P
製作:映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員会
©映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員会

次回作の筆が一向に進まない悩める脚本家の横田雄二(渡辺いっけい)の元に差出人不明のメールが届く。メールには「退行睡眠 失った記憶を取り戻し現代人のストレスをなくします!」の一文。横田は退行睡眠を使い30年前の自分に会い、助言し鼓舞することで、売れる脚本家へと導こうと試みる。一方、過去の横田(松田凌)は描いていた自分の理想像とかけ離れた自分に当惑するものの、未来から来たと言う自分の勧めに応じ、演劇仲間である峯井(樋口幸平)、中村(福松凜)と固く結んだ約束や、自分のファンである麻美(新谷ゆづみ)との出会いを契機として分岐する新たな世界線を辿ることになる。選ばなかった選択を過去の自分に選ばせることで、物語は追想の域を超えて展開し始め、クライマックスへと向かっていく。果たして横田は自身の手で未来を変えることができるか?

公式サイト
Instagram
X

松田 凌

1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。2012年、初出演舞台ミュージカル『薄桜鬼』斎藤一篇にて初主演を務める。2013年、「仮面ライダー鎧武/ガイム」の出演で一気に話題となり、2017年にはドラマ「男水!」(日本テレビ)で主演を務めるなど映像、舞台で活躍。近年の代表作として、映画『その恋、自販機で買えますか?』(23)、映画『舞倒れ』(24)など。2024年舞台「刀剣乱舞 心伝 つけたり奇譚の走馬灯」が上演された。

PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI