俳優の方々が伸び伸びと、生き生きとしてほしいというのがプライオリティの上にあった

――主人公は藤原季節さん演じる小説家の牧雄⼀郎ですが、主人公を中心に話が進むのではなく、12人それぞれにスポットを当てていく構成です。

金 僕の性質として、大きな物語があるというよりは、グランドホテル形式が好きで。いろんなエピソードが団子状にあって、少しずつ変化していくというのをやりたかったんです。

――⾃殺志願者のグループ、⼥優とマネージャー、不倫関係にある上司と部下など、様々なキャラクターが登場します。

金 この場所に、どういう人がいたら面白いかを考えつつ、その人たちをボーっと見ていたいというふうになればいいなと。あとはバラバラな人たちがいて、バランスの取れていない状態で全体的にまとまらないように無秩序な状態でいて欲しかったんです。

――舞台は2024年と2026年ですが、もっと先の近未来が描かれているような雰囲気が映画全体に漂っていると感じました。

金 どこかSFのような、退廃的な雰囲気は、準備段階から撮影の古屋幸一さんや音響の黄永昌さんにも話していて、漠然としたイメージの共有を事前に交わしていました。

――ロケ地はどういう場所だったのでしょうか。

金 営業停止中のホテルで、実際に存在する建物なので、その中の内装を活かしました。いつでも再開できるようにと温泉などもそのままの状態で、ホテルとしては生きているという絶好の場所でした。

――普通のホテルだと均一な画になりがちですが、部屋によって内装が違っていて、おしゃれですよね。

金 この映画のために変えたのではなく、もともと場所によって雰囲気が変わる建物だったんですよね。特にメインビジュアルになっている部屋は不思議な場所で、こちらで追加したのは真ん中にあるオブジェぐらいです。ロケハンのときに、その場所にあるものをどう活かすかを考えました。

――ワンシチュエーションでの撮影ということで、撮影の古屋さんとはどんな話し合いをしましたか。

金 古屋さんにオファーした段階では撮影場所が決まっていなかったんですが、12人が閉じ込められている閉塞的な状況だけど、どこか風通しのいい映画になればいいなと伝えていて。具体的に言うと、大人数がお芝居をして、そのアンサンブルをどう見つめるか。そう考えると、ちょっと引いたアングルになるのとか、そういうイメージをいろいろ話し合った記憶があります。

――あまり人物のアップもないですよね。

金 古屋さんと話したときに、ここぞとばかりに寄ってしまうと説明に終始してしまうことがあるので、なるべく意識して避けようとお伝えしました。

――長回しが多いですが、どういう狙いがあったのでしょうか。

金 セリフが多いし、長い会話のシーンもあるし。事前に古屋さんと一緒に「言葉をどう撮るか」ということを考えたときに、たとえば二人が会話しているシーンを切り返しではなく、ちょっと引いたサイズで長く撮ることで、先ほども言いましたが、芝居を途切れさせないようにしました。それによって俳優の方々が伸び伸びと、生き生きとしてほしいというのがプライオリティの上にありました。

――⼤量発⽣した謎の巨⼤⽣物を見せないというのは最初から決めていたんですか。

金 ちょっと見せたほうがいいんじゃないかという意見もあったんです。巨大な生物が現れる映画だと『ゴジラ』のように怪獣が出て来るディザスタームービーがありますが、少しでも巨⼤生物が姿を見せると、やっつけたくなると思うんですよね。見せることで、見ている人たちも全貌を知りたくなるし、こいつをどう駆逐するのかみたいな欲望を刺激してはいけないなと。サバイバルムービーではないので、あくまでも巨大生物は背景の一つ。窓から見えるビルなどと同じようなものとして考えていました。

――過去と現在が交錯しますが、最初から構成は決まっていたのでしょうか。

金 プロットの時点だともう少し行ったり来たりが複雑だったんですよね。完成したものも多少は前後するんですが、シンプルに前半・後半で分けました。自分が思っている以上に、観ている人たちには伝わりづらいものだと経験則的に分かっていたので、シンプルにして正解だったなと思います。それに複雑な構成だと、時間の経過をどう表現するか演じる側も難しいでしょうからね。