お互いに思っていることをどう本番でぶつけるかを大切にしている
――大西礼芳さんとの共演は初めてですか?
毎熊 共演は今回が初めてです。もちろん出演した作品は幾つも観ていますし、『菊とギロチン』(18)で演じられた勝虎かつなど、強く記憶に残っている役柄もあります。そういう印象もあって、目力も含めて強いキャラクターのイメージがあったんです。でも実際の大西さんは柔らかくて奥ゆかしい女性なんですよね。その奥ゆかしさが、今回の千歌子というキャラクターからも滲み出ていて魅力的でした。
――子役俳優の一晟(いっせい)を演じた岩田奏さんの印象はいかがでしたか。
毎熊 まさに一晟(いっせい)くんでした。岩田くんとも初めましてで、撮影の合間に学校の話とかしたんですが、実際に一晟くんと喋っている気持ちになるというか。本番で演じているときとの差がなくて面白かったですね。
――大西さんや岩田さんと1対1で演技について話すことありましたか。
毎熊 串田監督ともそうですが、役者同士でも演技についての話は一度もしてないですね。元から僕はしないタイプというか、理屈で何かを決めてというよりは、お互いに思っていることをどう本番でぶつけるかを大切にしていて。それをどう調整するかは、監督の役割だと考えています。
――完成した映画を観て、現場のイメージと大きく違うなと感じるシーンはありましたか。
毎熊 ほぼなかったですね。ストップウォッチレベルで、使うところだけ撮影しているぐらいの綿密さでした。カットをどこにするのか編集で決めるぐらいで、撮っているときの印象と大きく違うことはなかったです。現場では分からなかったことで言うと、串田監督に説明してもらってイメージはしているんですけど、バラバラの撮影だったので、シーンの繋ぎは完成する映画を観るまで想像がつかなかったです。
――毎熊さん自身、ワークショップを受けたことはありますか。
毎熊 それほど多い訳ではないですが、20代のときはありましたし、30代になってからは1回だけ行ったことがあります。
――振り返ってみて、ワークショップで得られるものは大きかったですか。
毎熊 僕はいいことだと思います。もしかしたらワークショップは駆け出しの役者が受ける印象もあるかもしれませんが、僕は幾つになっても、演技を研究する時間は大事だなと思います。ただワークショップと呼ばれる場所は、一歩間違えるとうさん臭くて(笑)。参加人数が多いと、競う雰囲気にもなってしまう。本来は自分自身と向き合う場なので、先生も含めて2,3人ぐらいがちょうどいいんだろうなと思います。
――ワークショップに限らず、役者さん同士のやり取りで学ぶことも多いですか。
毎熊 圧倒的に多いですね。完成した作品を観る人には、その過程を見ることはできませんが、現場で共演させてもらった役者さんから得られるものはたくさんあって。映画を観たり、本を読んだりして勉強するのも大切ですが、理屈じゃなくてお芝居を通して肉体的に気づくことってあるんですよね。
――監督の言葉や演出が、演技にダイレクトな影響を与えることはありますか。
毎熊 意外と僕は少ないかもしれないですね。監督が主催するワークショップもありますが、『初級演技レッスン』で言う演技レッスンとは違うのかなと思っていて。演技って広いというか、この広い何かをトレーニングすることによって、串田監督のように強烈な個性を持った方の指示の元でやることだと思うんです。監督が変わったら、毎回正解も変わってくるし。だから、そこの現場で監督に教えてもらったことに対して、そうなんだと納得しても、よその現場に行ったら全く通用しないこともあります。