ダンスも演技も誰かの真似から始めるのは良いこと

――学生時代のお話をお伺いします。高校時代から一番関心があったのは映画だったそうですね。

毎熊 そうですね。ずっとそうだったので、将来は映画の道に進むということも疑いもしなかったです。

――周りの友達などにも映画関係に進みたいとお話されていたんですか?

毎熊 よく卒業アルバムに将来の夢を書くじゃないですか。僕は、小学校からずっと映画監督って書いていました(笑)。

――高校時代に自主制作で映画を撮るみたいなことはしていましたか?

毎熊 それはやっていなかったです。同じ創作活動という意味では、高校時代はダンスをやっていました。ただ踊るのも楽しいんですけど、自分で選曲して、編集して、振り付けをしてというのを全部やっていて。演出だけではなく自分も踊るんですけど、それが楽しかったです。

――どんなダンスをやっていたんですか?

毎熊 ストリートダンスです。あまり最近は都心で見かけないですけど、仲間と集まってビルの前などで踊っていました。

――ダンスを始めたきっかけは何だったんですか?

毎熊 母親がジャズダンスやバレエのダンサーだったんですよ。僕が生まれる前に活動していて、子育てが落ち着いてからは、ダンス講師として活動していました。僕自身は母がやっていたダンスのジャンルに興味がなかったのですが、ある日、母がストリートダンスのビデオを観ていて、それをたまたま観たのがダンスを始めたきっかけです。

――そのときのダンス経験が演技にも活きている部分はありますか?

毎熊 誰かが作った振り付けを踊ったり、もっと上達したいと思って上手な人の動きを見て動きを真似たり。良いところ、悪いところ、それぞれあるかと思うのですが、個人的にはダンスも演技も誰かの真似から始めるのは良いことだと思っています。

――ダンスをやっていた方は体幹が鍛えられているから、演技でも立ち姿や立ち居振る舞いが良いと聞くことが多いです。

毎熊 そうですね。でも最初の頃は、それがネックになりました。全部のポーズが決まっているとダメというか。芝居を始めたばかりの頃は、「もっと普通に出てきてよ」と言われたこともあります(笑)。普段は気にならないんでしょうけど、おそらくカメラを向けたら違和感があると思うんですよ。そうやってダンスで染み付いたものを抜いていく作業が大変でした。

――高校卒業後は映像の専門学校に進まれたそうですが、その時点では役者になるとは考えてはいなかったのでしょうか?

毎熊 1年生のときは撮影照明専攻で、2年生のときに監督専攻に変更したのですが、役者は考えてなかったですね。

――東京の専門学校だと、なかなか地方では出会えないような、映画に詳しい生徒も多かったのではないでしょうか。

毎熊 やっぱりすごかったですよ。中学・高校でも映画が好きな友達はいましたが、それほど作品を観ていない人が多かったんです。いざ東京へ行くと、「変態?」というくらい映画のことしか頭にないような怪獣ばっかりだったので、自分は普通なんだと思って、衝撃を受けました。

――それに焦りを感じることもありましたか?

毎熊 あった時期もありますね。だから、それまであまり見ていなかった邦画を観たり、観た映画をノートに記録したりと、自分なりにやっていました。

――俳優になろうと思ったのはいつ頃ですか?

毎熊 3年制の学校だったのですが、卒業するちょっと前ぐらいです。当時は制作会社に入ろうかなという気持ちもあったので、企業説明会にも行って、いろんな人から話を聞いてみたりしましたが、どれもぱっとしないなというのが正直な感想でした。

――どうして俳優をやってみようと考えたのでしょうか?

毎熊 「ようし!俺は俳優になるんだ!」みたいな気持ちではなく、一回やってみようかみたいな、軽いところから始まりました。そういう状態で俳優という変な世界というか(笑)、大変なことを始めてしまいました。やってみたら案の定、なかなか上手くいかなかったんですが、だったら上手くなるまで続けようと思ったんですよね。でも当時、このまま一生売れない俳優をやっていくのだろうかと考えるのは恐ろしかったです。

――俳優というお仕事に真剣に向き合うきっかけはあったのでしょうか?

毎熊 「一生バイトして生きていくのか?」と思い始めた25歳ぐらいの頃、バイト先で「正社員になっちゃいな」と言われて、そのときに初めて自分がこれから何をやっていくか嫌になるほど考えました。その結果、俳優を続ける道を選びました。そのときに絶対辞めないと決めて今に至ります。

――最後に改めて『初級演技レッスン』の見どころをお聞かせください。

毎熊 あらすじを見ると、ちょっとマニアックというか、難しい映画なんじゃないというニュアンスを与える気がするんです。でも見終わった感覚は、ちゃんとヒューマンドラマになっています。『初級演技レッスン』というタイトルを聞くと、一般的なワークショップや稽古場のようなイメージを抱いて、俳優以外の人は自分とは関係のない世界に思えるかもしれません。でも、この映画は演技の元となる人の心の内側を探っていくというのがテーマになっているので、誰が見ても自分に当てはまるんですよね。誰しも、どこかで演じながら社会を生きているはずなので、一晟や千歌子のように蝶野の演技レッスンを通して、内側を探ったり、幸せを求めたり、トラウマと向き合ったりとは無関係じゃないと思います。と言っても、そこはあまり構えずにエンタメ性もあるので、マニアックな映画だと思わずに観てもらえたらうれしいです。

Information

『初級演技レッスン』
渋谷ユーロスペース、MOVIX 川口ほか全国ロードショー中

毎熊克哉 大西礼芳 岩田奏
鯉沼トキ 森啓一朗 柾賢志 永井秀樹
石井そら 中村天音 大滝樹 村田凪 高見澤咲

監督・脚本・編集:串田壮史
© 2024 埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ

父を亡くした子役俳優の一晟(いっせい)は、ある日学校の帰り道に「初級演技レッスン」と書かれた看板を掲げられた古工場を目にする。恐る恐る中に入ると全身黒ずくめのミステリアスな演技講師・蝶野と出会う。一晟は蝶野の導くままに、その場で即興演技を実演すると、不思議な体験をするのだった。一方、一晟が通う学校の担任教師・千歌子は、学校で「演劇教育の必須科目化」の是非を迫られていた中、いざなわれるように「初級演技レッスン」の門戸をたたく。千歌子もまた蝶野との出会いによって、想像だにしていなかった奇妙な体験をするのだった。かつてこの家に暮らしていたが、ある事件を起こして町を去ったはずだった。彼女の存在が、一見幸せに見えた萩乃たち家族が押し隠そうとしていた「毒」を暴き出し、悪夢のような日々の幕開けを告げる……。

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毎熊克哉

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』(小路紘史監督)で第 71 回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル 2017 新人男優賞、第 31 回高崎映画祭 最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作に『生きちゃった』(20/石井裕也監督)、『マイ・ダディ』(21/金井純一監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『そして僕は途方に暮れる』(23/三浦大輔監督)、『世界の終わりから 』(23/紀里谷和明監督)  などがあり、公開待機作に『悪い夏』( 25/城定秀夫監督)、『時には懺悔を』(25/中島哲也監督)、『桐島です』(25/高橋伴明監督)がある。

PHOTOGRAPHER:YASUKAZU NISHIMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:星野加奈子,STYLIST:カワサキタカフミ