『ネムルバカ』は原作も映画も「余白」があるのが魅力
――共演の綱啓永さんと樋口幸平さんのお二人はプライベートでも仲良しとお聞きしました。お二人の関係性はいかがでしたか?
久保 「そんなに仲いい?」ってぐらい仲が良くて衝撃的でした!ただ、お二人が合流したときは、私もたいちゃんもそれに負けないぐらい仲良くなっていたので、2・2で仲良い同士という組み合わせでした。
――まさに『ネムルバカ』の関係性そのままですね。
久保 本当にそうです!私たちはお二人が仲良しだとは知らなくて、やり取りを見て現場で気づいたんですが、綱さんと樋口さんのおかげで現場も和やかな雰囲気になりましたし、特にファミレスのシーンでは素晴らしい空気感を作ってくれました。お二人は伸び伸びと新しい演技をどんどん出していて、それがとても面白かったんです。阪元監督も楽しそうに見ていらっしゃって、「ここまで自由に伸び伸びやってもいいんだ」ということを示してもらいました
――ファミレスのシーンは、とぼけた空気感が最高でした。
久保 いいですよね。全然噛み合っていない(笑)。個性の強い人物がたくさん出てくる中で、それぞれの個性が混ざらないのが面白いんですよね。お互いに空気に飲まれないというか。続く海のシーンもそうですが、4人の人物像が粒立っているので、観てくださる方もそれぞれ違うキャラクターに惹かれるんじゃないでしょうか。入巣はどんなときも入巣。誰かに引っ張られたシーンがあるとしたら、ファミレスでの田口とのやり取りぐらいで、それ以外はずっと自然体で演じていました。
――ルカが音楽的な成功を収めて、入巣から離れていくときは、実際に寂しい気持ちになりましたか?
久保 信じられないほど寂しい思いをしました。そのせいか、初めて完成した映画を観たときに、ルカと別れてからの先輩がいない日々のシーンは一切覚えていなかったんです。「これ撮ったっけ?」という感覚の連続でした。それほど大きな喪失感があったのでしょう。その感情は涙や怒りにならずに、「この先も生活は続けなければいけないけれど、何かが足りない、何かモヤモヤする」という感じでした。かと言って、何か行動に移す訳でもなく、何かを探しに行く訳でもなく、ただただ生活を続ける。それが入巣なんだなと腑に落ちました。
――映画終了後の入巣とルカの世界線については、どう感じますか?
久保 この作品は原作も映画も、素敵な意味で「余白」があるのが魅力だと思います。「この後、また二人は居酒屋に行ったんだろうな」とか「布団の中でこんな会話をしたんだろうな」とか、描かれていない部分の会話などが想像しやすいんです。見る人によって解釈が全然違うと思いますが、それがこの作品の素敵なところです。ルカがいなくなった後の世界をどう感じるかは人それぞれで、寂しいと感じる方もいれば、前向きだと感じる方もいるでしょうし。人それぞれ、どう感じていただけるのか楽しみなところですね。
確かなのは、入巣はどんなときも“生きている”んですよね。止まらないんです。進み方も止まり方も知らないけれど、クラゲのようにただ生きている。そんな入巣にルカも救われていた部分があるのかもしれません。寮の中では時間が止まっているような感覚があるのに、一歩外に出るとものすごい速さで時間が進んでいて。入巣は外の世界に出ると置いていかれる感覚になります。でも寮の中だけは時間が止まっている。ルカはそれではいけないと気づいている。その差がすごく面白いんです。
Information
『ネムルバカ』
新宿ピカデリーほか全国公開中
久保史緒里(乃木坂46) 平 祐奈
綱 啓永 樋口幸平 / 兎(ロングコートダディ)
原作:石黒正数「ネムルバカ」(徳間書店 COMICリュウ)
監督:阪元裕吾(『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ)
脚本:皐月彩 阪元裕吾
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
大学の女子寮で同じ部屋に住む後輩・入巣柚実(久保史緒里)と先輩・鯨井ルカ(平祐奈)。入巣はこれといって打ち込むものがなく、何となく古本屋でバイトする日々を送っている。一方ルカはいつも金欠状態だがインディーズバンド「ピートモス」のギター・ヴォーカルとして、自らの夢を追いかけている。2人は安い居酒屋でダラダラ飲んだり、暇つぶしに古い海外ドラマを観たり…緩くもどこか心地よい日々を過ごしていた。そんなある時、ルカは大手音楽レコード会社から連絡を受け、2人の日常に大きな変化が訪れる……。
PHOTOGRAPHER:YUTA KONO,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI