二人の監督が新しいことに勇猛果敢に挑んでいる
――香川さんの演じる“ある男”は、どこか浮世離れしている謎な人物で、全てを理解するのは難しいキャラクターですよね。
香川 まず「本当に同じ人なのか?」ということを第一の疑問として持つ訳じゃないですか。いろんな職業に就くから、もしかしたら同一人物じゃない可能性もある。そこまで行くと果てしがないんですよ。もっと高尚に考えると、男の存在自体が曖昧で、その人だけに見えている存在かもしれないなど、いろいろ考えられる。脚本にも、男は何が好きで、どういう学校を出て、どういう経歴を持つのかは一切書かれていない、だからこそ先ほどお話した橋渡しをしたほうが、表現として分かりやすいんじゃないかと思ったんです。まあ分かりにくく散りばめられているんですが(笑)。その表現を見つけたときに、少なくとも僕はうれしかったですし、それを監督たちが受け入れてくれたのもうれしかったんですよね。
――様々な役作りをするにあたって、何かヒントにするものはあったんですか。
香川 まず「モデル」を探しました。今回は全部で6人のモデルがいて、その人のものまねをしているんです。それは最初から決めるのではなく、セリフを覚えていく過程で、「この役なら、こう言いたいな」という人を引っ張り出していくんです。その人の特徴や喋り方を思い出すと、本当にぴったりで、スルスルと言葉が出てきました。ここでは明かせませんが、僕の台本にはモデルとなる人の名前も書いてあります。
――最後に「災」の見どころをお聞かせください。
香川 最終的に解決しないし、スカッともしないというスタンスを貫いていて、そこに二人の監督が勇猛果敢に挑んでいるのがドラマの大きな見所です。これを観て、「なんじゃこりゃ」と言う方もいれば、「いいね!」と言う方もいるし、「さっぱり分からん」という方もいれば、「これは僕自身だ」と肉薄する方もいらっしゃる。そういう多様な受け取り方ができる作品だと思います。2025年現在、ドラマの裾野が広がっている中でも、新しい提示の方法ですし、それは勇気のあることです。それでいてエンターテイメント性もあるので、ぜひ観てほしいですね。
Information
「連続ドラマW 災」(全6話)
2025年4月6日より放送(※第1話無料放送)
【WOWOWプライム】【WOWOWオンデマンド】
出演:香川照之
中村アン 竹原ピストル 宮近海斗
松田龍平 じろう(シソンヌ) 中島セナ 内田慈 藤原季節 坂井真紀 ほか
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗(5月)
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:高江洲義貴、日枝広道、伊藤太一、近藤あゆみ
原案:5月
制作プロダクション:AOI Pro.
制作協力:電通
製作著作:WOWOW
香川照之
1965年12月7日生まれ。東京都出身。89年に大河ドラマ『春日局』(NHK)でデビュー。『赤い月』(04/降旗康男監督)、『北の零年』(05/行定勲監督)、『ゆれる』(06/西川美和監督)、『キサラギ』(07/佐藤祐市監督)にて日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞、『剣岳点の記』(09/木村大作監督)で第33回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。
PHOTOGRAPHER:TOSHIMASA TAKEDA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:TOSIHIKO SHINGU,STYLIST:KYOKO FUJII