ウォーリー木下さんの作品は個人で戦うのではなく全員野球

──地球の調査にやってきた3人の宇宙人W3の一人、プッコを演じるにあたって、稽古前に意識していたことはありましたか。

永田 今回の舞台に限らないんですが、「こういうことをやってみよう」みたいなことは、あまり事前に考えていなかったです。というのも舞台稽古はみんなで一緒に役を作っていく印象があるので、最初から自分の中で固めすぎてしまうと、柔軟性がなくなってしまうんです。もちろんドラマや映画の場合は、現場に入ったら、「よーいスタート」で即本番ですから、ある程度は決めていかないといけません。映像のお仕事も舞台のお仕事も、どちらも大好きですが、舞台には稽古期間があって、役についてじっくりみんなで考える時間がある。その点がとても贅沢だなと感じています。

――ボッコ役の松田るかさん、ノッコ役の相葉裕樹さんとW3を演じる3人のチームワークも大切ですね。

永田 タイトル通りW1×3ではなくW3なので、この3人でいることが大事で、空気感や宇宙人という設定をどう演じていくかは、お二人とウォーリーさん、もちろん他の皆さんにも助けていただきながら作っていきたいです。

――プッコというキャラクターはどう捉えていますか。

永田 すごく重要な役だなと思います。アイロニックな存在というか、そういう役回りがいなかったら、もっとやわらかい話になると思うんです。でも現実世界を生きる人間は、普段は言葉にできないけど心の中で思っていることはたくさんあります。そういうことをプッコは言葉にしちゃうので、良くも悪くも自分に正直。そんな皮肉屋が地球の良さを知っていく様は、物語で大事な一つのラインだなと思っていて、それをどう表現するかは大きな課題です。

――原作もそうですが、W3のコミカルなやり取りも大きな見どころになるかと思います。

永田 3人でお馬鹿なことをやっているなと思いきや、いきなり怖い話になったりもする。手塚先生の作品はそういう表裏一体なところが美しいと感じていて、もちろん今回の台本も、そういうふうに作られていますし、僕らも意識すべきポイントですね。

――これまでウォーリーさんと数多くのお仕事をされていますが、改めてどんな存在ですか。

永田 僕にとって初めての舞台の演出がウォーリーさんで、演劇『ハイキュー!!』も『ジャングル大帝』も演出はウォーリーさん。僕は今までやってきた舞台の半分ぐらいがウォーリーさんの作品で、師匠というか、メンターというか。とても温かい方で、憧れる部分もありますし、僕にとって大切な存在です。いつも驚かされるのは、これだけ何度もご一緒させていただいているのに、そのたびに新たな発見があります。「ウォーリーさんだからこれ」というのがないんですよ。『ジャングル大帝』で初めてリーディング音楽劇を経験させていただいたんですが、生バンドが演奏して、サイドにダンサーさんのステージがあって、そこで踊りながら獣になる。そんな舞台を観るのは初めてでした。今回も人形の操演の方と一緒にプッコをやるというのは新たな発明ですよね。

あとウォーリーさんの作品はワンオブゼム。みんなで表現することを大切にした全員野球なんです。個人で戦うのではなく、全員で行くぞというスタンスで、みんなで新しいことにチャレンジして、送りバントをして助け合いながら戦っていくみたいな、物語も音楽も含めてそういう作品になっています。

——今回の舞台で特に楽しみにしていることは何でしょうか。

正直、宇宙人になりたかったので、ついに夢が叶うことですね(笑)。宇宙人は人間じゃないし、地球の生命体でもないので、極端に言えばマジで何でもありなんです。もちろん原作はありますけど、正解がない中で一個の答えを出さないといけないというのが楽しみにしていることです。宇宙は無限ですが、ウォーリーさんの考えることも無限だと思うんですよね。とは言いつつ、宇宙の話と思いきや、今僕らが生きているリアルな日常でも、ちゃんと考えるべきことを問いかけてくれる作品です。絶対に「こう思うべきだ」という押し売りはしたくないんですが、観た方々が何かを考えるヒントになれたらいいなと。そういう作品になるように、全員野球で一つの作品を分厚く立体的に作れたらいいなと思っています。