「考えさせられる」よりも「面白い」を大切に

――クイズに取り組む傍ら、小説家として活動したいという思いは持ち続けていたんですか?

青柳 クイズ研究会を題材にした小説は賞に落選してしまいましたが、本一冊分の枚数のある小説でした。これだけの分量の創作を書けたのだから、人が書かないものを書き続けられたら、もしかしたら仕事として成立できるのかもしれないとは思いました。

――デビュー作となった『浜村渚の計算ノート』はどのような経緯で執筆されたのでしょうか。

青柳 実家に戻って学習塾に勤務していた頃、あまり人生が面白いと感じられていませんでした。何かやってみたい、それなら「過去にやっていた文章を書くことにしよう」と思いました。小説の公募の紹介文に「デビュー作は身の回りのこと、知っている世界のことを書きなさい」と書かれていたので、僕にとっての身の回りである塾から数学を題材に書くことにしたんです。

――『浜村渚の計算ノート』は後にシリーズ化され、その後も青柳さんはミステリー小説を中心に次々と新しい作品を発表されています。アイデアはどんなときに浮かぶのでしょうか?

青柳 新聞や小説を読んでいるときに「こういうのはどうだろうか?」と思いつくことが多いです。思いついたらメモをして仕事場のドアに貼っているので、新しいものを書くときはそのメモを膨らませていきます。

――西洋童話をベースにした『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』はNetflixで映画化もされました。反響はいかがでしたか?

青柳 赤ずきんちゃんのキャラクターや話の展開を褒めていただけることが多くて、読者の方の感想には「そういう風に読むんだ!」という驚きがあって面白いです。中でも書店員さんからたくさんの反響をいただきました。

――最近では、青柳さんは執筆の傍ら、怪談語りもされています。もともと怪談はお好きだったんですか?

青柳 子どもの頃から好きでした。テレビの怪談番組をよく観ていたし、先に弟が読んでいた『学校の怪談』も僕のほうがハマったぐらいです。また本で読んだ怪談話を学校の友達に聞かせると、みんなが喜んで聞いてくれるので楽しかったんですよね。高校生くらいになると、周りが怪談話をしなくなるので、僕も自然と怪談から離れていきましたが、ドラマ『新耳袋』を観て衝撃を受けて、再び怪談に触れるようになりました。

――日々忙しく執筆される中で、どのように怪談話を集めているのでしょうか。

青柳 たまに、学校での講演の依頼をいただくことがあるんです。そういうときは、先生にお願いして、生徒たちにアンケート用紙を配って実際にあった怖い体験などを聞いています。200人いるとしたら、だいたい半分の生徒は書いてくれます。

――『怪談刑事』などの怪談作品も書かれていますが、今後さらに書いてみたいジャンルや題材があれば教えてください。

青柳 僕は大正から昭和初期の時代に魅力を感じるので、そのあたりで面白そうな題材が見つかれば、また歴史ものを書いてみたいと思っています。例えば、歴史背景にSFの要素を入れてみるなど、バランスの良いフィクションを作れる題材を探していきたいです。

――最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。

青柳 小説をたくさん読んでいる人を感心させるというよりは、今日初めて小説を読んだ人を面白いと思わせたいという気持ちが強いです。「考えさせられる」よりも、「面白いなあ」と思えるもの。「こんな小説は見たことがない!」と思えるものだったらなお良いと思っています。『乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO―』は著名な人物を主人公に描きましたが、二人ともすごい人だったことは前提として親近感を感じてほしいですし、新しい友達を作る感覚で読んでいただけたらうれしいです。

Information

『乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO―』
好評発売中!

発売・発行:新潮社
価格:2,420円(税込)

大学の先輩後輩、江戸川乱歩と杉原千畝。まだ何者でもない青年だったが、夢だけはあった。希望と不安を抱え、浅草の猥雑な路地を歩き語り合い、それぞれの道へ別れていく……。若き横溝正史や巨頭松岡洋右と出会い、新しい歴史を作り、互いの人生が交差しつつ感動の最終章へ。「真の友人はあなただけでしたよ」──泣ける傑作。

公式サイト

青柳碧人

1980年、千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。早稲田大学クイズ研究会出身。2009年に学習塾に勤務する傍ら執筆した数学ミステリ『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞し、デビュー。昔話を下敷きにした連作短編ミステリ『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)で第17回本屋大賞にノミネート。『赤ずきん、旅の途中で死体に出会う。』はNetflixで映画化、『月刊アクション』(双葉社)でコミカライズ展開された。「西川麻子シリーズ」「猫河原家の人びとシリーズ」など多くの人気シリーズを手掛けている。

INTERVIEWER:YUKINA OHTANI