当たり前の幸せが当たり前じゃなかった時代のことを今知ることが大事

――緊迫感のあるシーンが続く後半は、より撮影も大変だったかと思います。

村山 目の前で人や鳩が撃たれるシーンや、空襲のシーンは本当に怖かったですし、本番の緊張感もすごかったです。慎重にリハーサルをやらせていただいたんですが、同じことを繰り返すのではなく、徐々にレベルを上げていきました。

――台本にない動きも加わったということでしょうか。

村山 そうです。もちろん決まった動きもありましたが、たとえば「このとき、あなただったらどうしますか?」という問いかけがあって、思うがままに叫んで動くシーンもありました。正直、最初は演じることへの苦手意識や恥ずかしさもあって、戸惑いもあったんですが、周りの方々が作ってくださる空気感のおかげで、いつの間にか自分も本気で怖くなって、みんなを守りたいという気持ちになりました。

――鳩との共演はいかがでしたか?

村山 基本的に籠の中には粘土で作られた鳩がずっといて、撮影期間中に二日間くらい本物の鳩と接しました。二羽いらっしゃったんですが、すごく良い子たちで(笑)。飼い主の方に協力していただきながら、機嫌を損ねないように使い分けていました。

――「人を殺したことありますか?」「ないですよ」「犯罪ですよね」「もちろんです」「でも戦争なら罪にならない」というやりとりは、本作のメッセージを端的に表したやりとりでした。

村山 普通に考えたら人を殺すことは犯罪ですけど、戦争という話になってくると、なんとも言えない複雑な気持ちになりました。殺したくて殺している訳ではないですし、誰かを守るためにやってしまったかもしれないと思うし……。それを純粋な藍ちゃんが言うのが当時を物語っていて一番伝わるのかなと思います。

――藍が「何してるの!?ボンちゃん早く隠れなさい!」と言うシーンは迫真の演技でした。

村山 あのシーンもめちゃくちゃ怖かったですし、カット割りをして何回も撮りました。藍ちゃんは守られたいし、守りたいみたいな葛藤もあって、気づいたら動いていたという感じなのかなと。実際に演じながら、「私だったら守るんだろうな」と思いました。

――丈監督の演出はいかがでしたか?

村山 「こんな言い方で言ってほしい」と実際に演じてくださるので、演じる際の言い方のテンション感や、なんでこういうことを言っているのかという説明も分かりやすくて。手厚く指導してくださるので、演じる上で、たくさんのヒントをいただけて助かりました。私はずっとステージで表現してきた人間だったので、どうしても体全体で表現したくなってしまうんですよね。でも映像だと、また表現方法が変わるので、すごく勉強になりました。

――完成した映画を観た感想はいかがでしたか。

村山 撮影中、私には藍ちゃんが患者に見えなかったんです。でも初めて映画を観たとき、上手く言葉にできないから伝書鳩を飛ばして、「誰か私を見つけてください」と願う重たさに、藍ちゃんは心に病を持っていたのかと初めて気づきました。そのワードが何回か出てくるのが伏線になるので、この映画のキーパーソンだと思いました。また当たり前の幸せが当たり前じゃなかった時代のことを今知ることが大事なんじゃないかなと感じたので、若い方にも知っていただくことで、語り継げるものがあるのではないかと。ぜひ幅広い層に観ていただきたいなと思います。