走る描写は面白い映画につきもの

――クライマックスで全力疾走するシーンも含めて、遠藤さんは肉体を駆使する役どころでした。

遠藤 前もって井上監督からは「最後のシーンは男神から逃げてもらうので相当走ってもらうことになる」と言われていました。だから準備はしていて、足をほぐして、体全体を動かして、体力のつく食事もして本番に臨みました。個人的に走る描写は面白い映画につきものだなと思っていて。勇輝が男神から逃げて、最後に対峙するシーンは特に印象的だなと感じました。

――走り方も何か意識しましたか?

遠藤 井上監督は走るシーンに限らず、「かっこよく撮りたい」と何度も仰っていました。だから、闇雲に走るのではなく、建設会社で働いているというバックボーンもあるので、綺麗なフォームで走ることを意識しました。シャワーシーンもありましたが(笑)、井上監督としては肉体労働に従事する男のかっこよさみたいなものにこだわっていたのかなと思います。

――普段から体づくりには気を使われているのですか。

遠藤 学生のときにバスケをやっていて、今もバスケが大好きなんです。それこそシンスケさんも参加されるんですが、よく役者仲間でバスケをやっていますし、普段からちょいちょい体を動かしています。

――先ほど様々なジャンルの要素が入っているというお話がありましたが、お芝居の面でもメリハリが必要だったのではないでしょうか。

遠藤 客観的にホラー映画として捉えると、俳優としては怯えたり、怖がったり、ショックを受けたりを、実感を持って演じたいというのが大前提にありました。『男神』にはそういうホラー映画の良さもありつつ、家族の喪失や後悔、なぜ自分が一番理解しているはずの妻のことを全て分かっていなかったんだという主人公の葛藤など、人間的描写がふんだんに盛り込まれています。ホラー映画は生々しい芝居というよりも、ホラー映画におけるロジックみたいなのがあると思うんですが、今回は人間的で生々しい精神描写も脚本から読み取れたので、人間くさく演じられる部分はしっかりとやりたいという思いがありました。

――妻役を演じた彩凪翔さんの印象はいかがでしたか。

遠藤 最初から夫婦役というのを意識してくださって、僕に気を使わせないように繊細なコミュニケーションの取り方をしてくださいました。彩凪さんの役は、自分の子どもを生贄に捧げなきゃいけないというしきたりの中で葛藤する複雑なメンタル描写があって、子どもが消えてしまう大事なシーンの撮影のときは、役の感情を表現するのにストイックに臨まれていて、目をみはりましたし、とても勉強になりました。高い意識で作品に没入しているのが伝わってきてリスペクトしましたし、改めて宝塚出身の方のすごさを実感しました。

――コスチュームの着こなしもさすがでした。

遠藤 そうなんです!巫女の衣装とメイクが、ものすごく似合って、馴染んでいましたよね。

――息子役を演じた塚尾桜雅さんとの共演はいかがでしたか?

遠藤 桜雅くんが出演していた塚本晋也監督の『ほかげ』(23)を観たときに、素敵な俳優がいるんだなと強く記憶に残っていて。どんな子なのかなと思っていたら、普段は等身大の小学4年生で、とてもいい子だし、無邪気さもあって、変に大人びてもいない。現場でも等身大でいてくれて、僕のことも彩凪さんのことも親のように慕ってくれて、やりやすかったですね。