こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。これまでずっと過去に書いた小説しか載せてこなかったのですが、最近ちゃんと映画を観たり本を読んだりしているおかげで創作意欲が湧いています、やったね。ということで最近書いてみた小説を載せようと思います。よかったら読んでください。

『映画』

また同級生が結婚したらしい。Instagramを開いて一発目に目に入った投稿は、赤い薔薇の花束を持って満面の笑みを浮かべた男女の写真に「彼にプロポーズしてもらいました」という文章が添えられていた。またか、とわたしは携帯を置き、メダルに手を伸ばしては次なる目的地を目指すべく、サイコロボールを落とすことに集中した。同級生は結婚したり、子供を産んだり、人生の次なるステージみたいなものに進んでいるが、わたしは3000円で買った1000枚のメダルを親友と分け合って桃太郎電鉄に向き合っていた。富良野の次は松山を目指すことになった。遠すぎる。わたしはどこにも行けていないのに。

黄色のカードマスに止まると、エンジェルカードがもらえた。しばらくの間、エンジェルはどこへ行ってもその度に15億をそっと渡してくれた。「エンジェルカード欲しいよね、15億そっともらいたいよ」なんて話しては時折襲ってくる虚しさを無視した。何時間ここにいたのだろう。1000枚あったメダルは空っぽになり、手は真っ黒になっていた。ウェットティッシュで指先を拭きながら、お腹が空いていることにようやく気がついた。わたしがメダルゲームに集中しすぎて自分の空腹にも気付けない間に、みんなは現実の人生ゲームを着々と進んでいるのだろう。

ゲームセンターにはいろんな人がいる。カップルで楽しんでいる人もいれば、一人で動画を見ながら黙々とメダルをつぎ込んでいる人がいたり、UFOキャッチャーをしている女子高生の悲鳴のような歓喜の叫びに何度もビビらされた。わたしたちはこうして時々ゲームセンターに来ては、前回預けたメダルを取り出すための暗証番号が思い出せずまた課金するのだった。

お腹を空かせた二人は駅前のねぎしに駆け込んだ。どこまでも高校生のときのままみたいな行動範囲に笑ってしまう。まるねセットを2つ頼むと、彼女は最近できた年下の友達の話をしてくれた。バイト先での出来事、弟と久々に会ったこと、目指す老後の過ごし方とか、なんでも聞かせてくれる彼女の伸びた髪を眺めていた。

「あれ観に行こうよ、今からさ」

いつか観たいねと話していた映画を突然観にいくことになった。彼女といると、人生はいつも急にくるくると回る。牛タンと麦飯を一気に掻き込んでは、上映している映画館を調べて、あと30分で始まる吉祥寺に向かうことにした。

急いで乗り込んだ車両はグリーン車だった。お腹いっぱいで走ったから横腹が痛い。一息ついてよく見ると、デッキでもグリーン券が必要だという表示があった。隣の車両に移動しようと扉を開けると、中はぎゅうぎゅうで連結部分でしばらく揺れていた。わたしたちはきっとすごく滑稽だった。

吉祥寺駅に到着すると、上映まではあと10分もなかった。なかなか来ることのない土地に戸惑いながら、なんとかたどり着くと同じような人たちがたくさんいた。座席はガラガラだったので一番後ろの席を購入して、時間ギリギリだというのにポップコーンまで手に入れた。予告のないタイプの映画館だったので、席についた瞬間に映画泥棒が踊りだした。

きっとこの劇場内にはわたしたちを合わせて10人くらいしかいなかった。その中でポップコーンを食べているのはわたしたちだけで、静かなシーンで咀嚼音を立てないように必死だった。時々一粒落としてしまっては、笑いを堪えて肩を揺らした。

後半になると彼女は泣いていた。時々鼻をすすりながら、パーカーの袖で目を押さえていた。映画より横目で彼女を見ていた気がする。わたしはどこへも行けない、何にもなれない、人生ゲームのルーレットも回せないでここにいる。それでも今日みたいな日が、なによりも愛せると思ってしまうのだ。

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キャ・ノン

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する11人組アイドルグループGANG PARADEのメンバー。また、「KiSSをあなたにお届けchu!♡」をキャッチコピーに活動するWACK初の王道5人組アイドルグループ『KiSS KiSS』のメンバーの一人でもある。ライブ好きで、苦手なことや、できないことは出来るようになればいいというタフでロックな精神の持ち主。2024年5月31日より自分自身のライブレポートなどを綴った『アイドルリアル備忘録』をSTREAMにて連載中。