こんにちは。GANG PARADE/KiSS KiSSのキャ・ノンです。すっかり春が近づいてきて、花粉が本気を出してきましたね。わたしはすっかり舌下療法をさぼってしまい今年の春は無力です。でも今のところ鼻は大丈夫なのでギリ効いている気がします。目はやばいです、痒すぎ。というわけで今日は春をテーマに小説を書いてみました。よかったら読んでください。

季節が変わるということ
毎年この時期は何を着たらいいのかわからなくなる。あまりにも冷たい風は吹かなくなって、代わりに少し暖かくなった突風が花粉とともに襲ってくる。春の始まりはいつも穏やかじゃない。街ゆく人は少しずつ明るい色を身に纏って、トレンチコートやデニムジャケットなんかを羽織っている。わたしは春服が苦手だ。春の色も苦手で、淡い暖色のものは家にひとつもない。むずかしくて似合わないからだ。いつだって地味な色で、自分で自分を抱きしめる。
でも暖かい日はうれしい。冬は寒さに負けてろくに散歩もできず、外にいても早足で建物の中に入ることしか考えていなかったのに、春は少しゆっくり歩きたくなる。あと少しで咲きそうな桜を毎日待ち構えることができるのだ。八百屋に行って苺でも買おう。少し家から遠いけど、おいしいパンも買って帰ろう。夏によく通っていたペットショップも見にいこう。今日はなんだかそんな日だった。
いつもお客さんのいないペットショップは二階建てで、二階の窓際にいるフクロウにわたしはいつも挨拶していた。今日もいつもみたいに、少しひさしぶりになってしまったけれど挨拶をしにいこうと階段を上ると、そこに彼の姿はなかった。彼なのか彼女なのかわからないけれど、そのスペースには空のショーケースが置かれていた。まるで最初からいなかったかのように、でも何も陳列されていないことでいなくなったばかりなのかと察せてしまうようなその空っぽがとてもさみしくさせた。誰かに飼われたのだろうか、それとも別の店舗に行ったのだろうか、なんとなく店員さんには聞けなかった。この街に住んで3年が経とうとしている。引っ越してきましたこれからよろしくお願いします、そんな挨拶をした日からなぜかずっといてくれるものだと思ってしまっていた。
少しの動揺を隠して、いつもは見ない熱帯魚のコーナーに目を向ける。鮮やかな小さな魚たちがひらひらと舞っている。メダカの色違いみたいだなんて思ってしまった自分が心底嫌になった。少し進むといろんな種類の金魚がそれぞれの水槽で泳いでいた。真っ黒なデメキンは四隅でじっとしている。中学生の頃、わたしをいじめていた女の子にデメキンと呼ばれていたことを思い出す。目が大きくて気持ち悪いからという理由だった。なんとも安直でセンスがなくて残念だけど、中学生のわたしはそんなふうに捉えられるわけもなくちゃんと傷ついていた。目の前でふわふわと泳ぐ真っ黒なデメキンたちは、目の周りごとありえないほど飛び出していて、正面から見ると口より目の方が大きかった。さすがにそこまで目出てないよ、今のわたしだったらあの子に言えるのにな。まあきっとあの子も、今ならそんな残酷なことは言ってこないだろうけれど。
元気でいてくれたらいいな、もう会うことはないけれど。そうか春だものね。

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