いろいろなことに挑戦をして、どれも表現につながっていくと気づいた
――先ほど、舞台「サド侯爵夫人」のお話もありましたが、演出は成宮さんの俳優デビュー作である2000年の舞台「滅びかけた人類、その愛の本質とは…」と同じく宮本亞門さんでした。
成宮 普通だったら復帰することになって、最初のお仕事が決まって、それを皆様に見ていただく前に、いろいろ営業していただく時間があったりするんですけど、僕の場合は海岸までジャズを聴きに行った時に亞門さんにお会いしたんです。

――偶然だったということですか。
成宮 そうなんです。亞門さんが真ん前に座っていて、「お久しぶりです」とご挨拶させていただきました。お仕事となると「滅びかけた人類、その愛の本質とは…」以来でした。復帰をするなら、絶対に俳優は一度舞台をやるべきだと思っていたので、作品選びの時に、きついものでもいいからやりたいという話をしていたんです。そしたら、どえらいきつい舞台が来てしまいました(笑)。
――観念的なセリフの応酬ですからね。
成宮 俳優人生の中で一番大変だったと思います。最後に全裸になるシーンがあるので、お芝居はもちろん、肉体的にも仕上げていかなくちゃいけなかったんです。
――普段から鍛えていらっしゃるイメージがありますが、舞台向けの調整はまた違うものですか。
成宮 人様に見せるとなると、体脂肪率を下げていかなきゃいけなくて、かなり絞りました。
――デビュー以来の宮本さんの演出ということで、改めてどんなことを感じましたか。
成宮 デビュー当時は知らないことだらけだったので、言われるがままにという感じだったんですが、いろんなことを経験した後で亞門さんに演出をつけてもらうと、「こういう意図があるんだ」「こういうところが亞門さんは素晴らしい」という良さを感じながら、いろいろなことを受け取ることができました。亞門さんは出役もやられている方なので、板の上に立つ人間の心境もよく分かってらっしゃって。役者が納得していないことを無理にさせるということはしないんです。そのために三島文学はこういうふうに読むんだという読解の方法みたいなものを、三島由紀夫が大好きな亞門さんに教えてもらいました。
――「サド侯爵夫人」について深掘りして教えてくれるということですか。
成宮 かなり細かくです。書かれている文字通りの感情とは、また別のものがあったりするわけで、三島がその時代をどう生きていたのか、家族関係がどういう状態だったのか、お母様との関係性が変わった時期の作品であるとか。そういうことが分かってくると、「なるほどな」と腑に落ちるんです。
――作品単体だけじゃなくて、バックボーンも踏まえての説明なんですね。
成宮 それがあるから、こういう心境で書いているんだろうなとか、まっすぐな読み手をバカにした書き方をしているように見えて、実はそうじゃないとか。そう解釈すると面白いということがたくさんあって、毎日が充実していました。

――『藁にもすがる獣たち』の現場で俳優としてのブランクは感じましたか。
成宮 思った瞬間に動けるというような神経回路が、ちょっと詰まっている感じはありましたが、俳優としてのプラクティスみたいなものは、かなり「サド侯爵夫人」で養われたなという感覚がありました。
――また「サド侯爵夫人」のような、ハードルの高い舞台に挑戦したい気持ちはありますか。
成宮 バベルの塔というか、とんでもない高い壁に、またぶつかりたいという思いはあります。俳優にとって、いつになっても成長する時間は大切ですからね。若い頃から、挑みたいというよりは、俳優をやるなら挑むべきだ、と思っています。
――活動休止期間中、もう二度とお芝居はしないと考えていた時期もあったんですか。
成宮 辞める時は、もうお芝居をする気はなかったです。
――渇望感や寂しさはなかったですか。
成宮 もちろん、ずっとやってきた仕事を辞めたので、その分のスペースが空きますし、他のもので埋めていくまでに時間はかかりますよね。その後、いろいろものを作ったり、プロデュースをしたりとやってみたんですが、自分が熱中できるのは、何かを作ったり書いたりすることにしても、結局は表現につながっていくというところで、「やはり俳優なのかな」ということを、世界中を旅したりしながら、8年かけて考えていました。今お芝居をやったらどういう感じになるんだろうと、自分自身がどうなるのかを期待していた面もあります。ただ俳優は一人ではできない仕事で、マネージャーがいたり、いろんなものが整わないとできません。そのタイミングが整うかもしれないなという時に、たまたまご縁があって、そこからスタートして、今回に至るという感じです。
――最後に改めて、『藁にもすがる獣たち』の見どころをお聞かせください。
成宮 自分には縁のない話だと思わず、誰にでも起こりうることだと思って見ていただけると、どこかに必ず感情移入ができる作品です。1億円というお金の先でどう生きるか、何を大切にして生きるか。自分がこだわっていたもの、大切にしていたものが、いかにしょうもないものだったかということに気づかされたりもする。そういう基本テーマがあるので、自分にとって大切なものは何かというのを、いろんなキャラクターを通して感じて、考えてもらえるとうれしいです。
Information

『藁にもすがる獣たち』
2026年9月25日(金)より公開
出演:鈴鹿央士 成宮寛貴 森七菜 ほか
監督:城定秀夫
脚本:小林靖子・城定秀夫
原作:曽根圭介「藁にもすがる獣たち」(講談社文庫)
©曽根圭介/講談社 ©2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会
チャンネル登録者数“2ケタ”の弱小大学生YouTuber・佐藤寛治(鈴鹿央士)は、ある日バイト先のネットカフェで客が置いていった怪しげなボストンバッグを発見する。チャックを開けると、そこにはなんと1億円分の札束が入っていた!寛治は思わず、そのバッグに手を伸ばし……。
成宮寛貴
1982年9月14日生まれ。東京都出身。00年、宮本亞門演出の舞台「滅びかけた人類、その愛の本質とは…」でデビュー。その後、数多くの映画、ドラマに出演。16年に活動休止した後、復帰作「死ぬほど愛して」(ABEMA/25)ではABEMAオリジナルドラマ史上最高の総視聴数を獲得。今年は宮本亞門氏が演出を手掛ける舞台「サド侯爵夫人」で主演を務めた。今作が復帰後初の映画作品となる。主な出演作品に「オレンジデイズ」(04/TBS)、NHK大河ドラマ「功名が辻」(06/NHK)、「ハチミツとクローバー」(08/CX)、「相棒」シリーズ(12~13/EX)、『逆転裁判』(12)、『映画 暗殺教室~卒業編~』(16)など。
PHOTOGRAPHER:AKIHIRO SAGA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:Miyoko Koenuma (&’s management ),STYLIST:TOMOMI SUGINAGA
