家族ができたことで、より真剣にお芝居に向き合うようになった

――大学を卒業して、お芝居に対する意識の変化はありましたか?

山口 どうなんだろう……。不安みたいなものはあったのかもしれないですね。ただ、その頃に事務所の仲間と一緒に舞台をやっていて、オムニバスだったんですけど、自分で本を書きながら、みんなで半年ぐらい稽古して練り上げた作品を公演するみたいなことをやっていたので、それに夢中になっていました。自分の引き出しを増やしたり、みんなのキャラクターを考えたり、そういうことに集中していましたね。その時に自分で本を書いた経験は今にも活きています。人を観察する訓練にもなりましたし、役の大きさに関係なく一人ひとりのキャラクターに意味があって、最後にちょっとだけ出てきて一言だけセリフを言うみたいな役柄も、実はめちゃめちゃ重要なんだということを学びました。

――二十代の時にターニングポイントになった作品は何でしょうか?

山口 大きく変わったと自覚している作品が二つあって。2002年にカクスコが解散して、所属していた事務所的にも、新しい劇団を探していて、「つ組」という劇団をみつけ、その舞台に出演させていただいたんです。人生初のコメディだったので、人を笑わせるってどういうことだろうと、すごく悩みましたし、ネプチューンさんを始め、お笑い芸人さんのコントも参考にさせていただきました。いざやってみたら、客席からシーンって音が聞こえてくるぐらいスベッたんです(笑)。なぜかと言うと、笑わせようと思うあまり、自分の役は気持ちがなくて形でしかなくて全然笑えなかったんですよね。それで傷付いていたんですけど、また「つ組」の舞台に呼んでいただいて。その時は人を笑わせようと下手に考えるのはやめようと思って、その役を全うしようと集中してやっていったら、自分の予想だにしないところで大爆笑が起きて。演出家の方からも「今日のMVPだった」と言ってもらえて、「笑わせるんじゃなくて笑われるんだな」と学びました。

――1回目でスベッても山口さんにオファーしたのは、コメディの才能を見抜いていたかもしれないですね。

山口 もう一つは2007年に出演した「劇団道学先生」の『デンキ島~白い家編~』初演です。いつもの「劇団道学先生」は、座付作家の中島淳彦さんが作・演出なんですけど、その時は「劇団モダンスイマーズ」の蓬莱竜太さんで。小劇場の先輩たちが、たくさんいる中でやったんですけど、とある島にヤクザたちが来て、主役の漁師たちが追い詰められて、1時間ぐらい暗くて絶望的な感じが続くんですけど、僕と古山憲太郎さんが1時間ぐらい経ってから出てきて、一気に雰囲気を変えていくという、ありがたい役でした。その時にお客さんがたくさん笑ってくれたんです。それを客席で観ていた方々が、僕を気にいってくださって、そこから小劇場の劇団から声をかけていただく機会が増えました。ようやく人の目に触れるようになったきっかけの作品でしたね。

――舞台中心から、映像作品が増えたきっかけはあったのでしょうか。

山口 30歳を過ぎて、結婚して、子供もできて。ふと気づいたら、子育てもあって映画を全然観れていないなと。最近の映画を観ている人たちと話した時に、話題についていけなくなっていたんです。よくよく考えたら、もともとはテレビや映画に出たかったんだよなと。これまで通り舞台に出ながら、映像のお仕事もしたいなということで、映像のワークショップに通ったんです。それで少しずつ映像にシフトしていきました。家族ができたことで、より真剣にお芝居に向き合うようになったんですよね。

――どういう時にお芝居のやりがいを感じますか。

山口 舞台だと、台本で決められたことだけじゃなくて、相手と会話のやり取りをしながら、相手が何をしてくるか分からないし、こっちも何をするか分からない状態で。その時に「今ここに生きている感覚」というのがあって、それを見てお客さんが笑ってくれたり、何がしかの反応をしてくれると、すごく楽しいですね、映像でもぐっと集中している時に、スタッフさんも含めて失敗が許されない中で、みんなで「いいの撮れたね」という気持ちを共有できると楽しいです。よくマネージャーに言われるんですけど、僕は毎回撮影がある度に「楽しかった!」ってメールを送っているらしいんです(笑)。この先、何十年経っても、その感情は変わらないんでしょうね。毎回、ドキドキしますし、新鮮で楽しいし、はしゃいじゃうんですよね。

Information

THEATER MILANO-Za オープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023
『パラサイト』

●東京公演
日時:2023年6月5日(月)~7月2日(日)
場所:THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)

●大阪公演
日時:2023年7月7日(金)~17日(月・祝)
場所:大阪・新歌舞伎座

原作:映画『パラサイト 半地下の家族』
台本・演出:鄭 義信
出演:古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ
キムラ緑子、みのすけ / 山内圭哉、恒松祐里、真木よう子
青山達三、山口森広/田鍋謙一郎、五味良介、丸山英彦、山村涼子、長南洸生、仲城 綾、金井美樹

堤防の下にあるトタン屋根の集落。川の水位より低く一日中陽がささず、地上にありながら地下のような土地で金田文平(古田新太)の家族は家内手工業の靴作りで生計を立てて暮らしている。一方対照的な高台にある豪邸では、永井慎太郎(山内圭哉)、妻の千代子(真木よう子)、娘の繭子(恒松祐里)、引きこもりの息子賢太郎がベテラン家政婦の安田玉子(キムラ緑子)とともに暮らしている。文平の息子の純平(宮沢氷魚)は妹の美姫(伊藤沙莉)が偽造した大学の在籍証明を利用し、繭子の家庭教師としてアルバイトを始める。息子の賢太郎のアートセラピーの教師として、美姫が、慎太郎の運転手や玉子がクビになるように仕向け、その後釜に、文平と妻の福子(江口のりこ)が、と一家は永井家に寄生していく……。

公式サイト

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山口森広

1981年9月23日生まれ。神奈川県出身。11歳で俳優デビュー。2002年、劇団「ONEOR8」に入団。ドラマ、映画、舞台、CMを中心に活躍。短編映画『歌う!女探偵』(2018)で渋谷TANPEN映画祭助演男優賞、短編映画『しあわせのかたち』(2019)で福井駅前短編映画祭最優秀主演男優賞受賞。短編映画『捨てといて捨てないで』(2020)で自身初の脚本・監督に挑戦。主な映画出演作に『バトルロワイアル』(2000)、『散歩する侵略者』(2017)、『彼女来来』(2021)『階段の先には踊り場がある』(2022)、『アイ・アムまきもと』(2022)など。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI