仕事を頑張れる原動力は野球観戦

――“ガラス”というキーワードから咲妃さんが思い浮かぶものは何でしょうか。

咲妃 今パッと思い浮かんだのは、宝塚音楽学校のお掃除場所です。私はバレエ教室のお掃除を担当していて、そこで窓だったり、鏡だったり、指紋一つ、汗の雫跡一つないぐらい、命をかけて美しく磨いていました。そのときの記憶もあって、ガラスは曇り一つない、傷一つない美しいものという印象があります。磨けば磨くほど美しさで応えてくれるけど、儚くて、負荷をかければ簡単に崩れてしまう。そんなイメージを雪子に重ね合わせています。

――雪子の役作りで意識していることは何でしょうか。

咲妃 “徹底的”をやめようと思っています。今まで徹底的に役作りをしてきた経験があるので、それをやめるのは自分の中ですごく勇気がいることです。ただ、「こうあらねばならない」みたいな凝り固まった考えや、「ちゃんと作り上げたい」という気持ちが強ければ強いほどガチガチになってしまって、周りに散らばっているヒントを拾いにくくなってしまいます。今回は新しい世界に飛び込むという意味でも、自分自身の間口を広くして、前に進んでいきたいなと思います。言うは易しで難しい挑戦ではありますが、今までも、ふっと力が抜けている瞬間に、「いいね」というお言葉をいただくことが多くて。だから自分では足りていないような感覚があっても、これがいいのかと不思議に思うこともあって。客観的に見ていただいてこそ成立するのが舞台なので、自分の感覚に頼らないで、そういったお声を大事にしたいなと思います。

――ここ数年、出演舞台が続く一方で、映画やドラマの出演も増えていますが、咲妃さんがお仕事を頑張れる原動力は何でしょうか?

咲妃 お話しするだけで目がキラキラしてしまうんですが(笑)、野球観戦が大変重要な原動力になっています。と言っても野球の面白さを知ったのは2年ほど前ですが、応援することの喜びを感じられるおかげで、コロナ禍でも情熱を失わずに、乗り越えることができました。試合の勝敗に関わらず、頑張っている選手の方々を見ていると勇気づけられて、私も頑張ろうって思います。

――野球観戦を好きになるきっかけとなった球団と選手を挙げていただけますか。

咲妃 好きな球団はオリックス・バファローズで、好きになったきっかけは山本由伸投手です。山本投手のご出身は岡山県なのですが、野球に専念するために宮崎県の高校を選ばれて、野球の腕を磨き、オリックスに所属されたというのを知って。私も宮崎県出身なので、勝手に親近感を抱いて、そこから興味を持ち始めました。素人目に見ても素晴らしいと分かる山本投手のピッチングのとりこになって、そこから中嶋聡監督率いるオリックスに興味を持ち、今は中嶋監督のタオルを掲げて応援しています(笑)。特定の選手というよりも、最近の言葉で言いますと「箱推し」でございます。

――今年のWBCでも山本投手を筆頭にオリックスの選手が大活躍で、優勝の原動力にもなりました。

咲妃 普段はライバルである皆さんが、同じ目標に向かって力を合わせて、それを達成なさるお姿は感動以外の何物でもなかったです。ちょうど『マチルダ』のお稽古期間中だったのですが、休憩時間は私だけではなくて周りの方々も日本代表の皆さんの様子を見守っていて、その空気感にとても興奮しました。優勝が決まった瞬間は見逃したのですが、結果を聞いて感動の涙を流しました。選手の皆さんはWBC後も、それぞれの地に戻られてご活躍で、オリックスだけではなく、各球団に注目するようにもなりました。ライバルとはいえ、野球を愛する選手の皆さんの心は一つなんだなとWBCを通じて感じて、このお仕事でも教訓になることばかりでした。

――2年前に好きとはなったとは思えないほどの熱量を感じます(笑)。

咲妃 宮崎はいろんなチームのキャンプ地になっていますので、幼少期から身近に野球があったにも関わらず、全く興味を示さなかった自分が本当に悔しいです(笑)。