お客様を間近に感じられるカーテンコールの瞬間にやりがいを感じる

――キャリアについてお伺いします。ミュージカルに興味を持ったきっかけは小学1年生のときに観劇した劇団四季の『美女と野獣』だったそうですが、それまでドラマや映画に興味はあったんですか?

咲妃 「遊ぶなら外で遊びなさい」という両親だったので、映像に触れる機会は少なかったんです。舞台にはよく連れて行ってくれて、その一つが『美女と野獣』でした。ディズニーアニメの『美女と野獣』の世界が目の前に広がっていることに驚きましたし、「ベルがいる!」と感動したのを覚えていますね。

――小学5年生からクラシックバレエを始めたそうですが、どういうきっかけだったのでしょうか。

咲妃 志が高かった訳ではなくて、「体が柔らかくなりたい」という理由で妹と一緒に始めて(笑)。両親は「なんてお金のかかる柔軟体操なんだろう」と思ったはずです。そのお陰で踊ることの楽しさを知ることができました。

――その頃から人前で踊るのも楽しかったんですか?

咲妃 楽しかったですね。今も変わらないんですけど、私は小さい頃からお客様にお礼をしている瞬間が一番好きなんです。拍手を送ってくださる方に、お辞儀している時間がすごく幸せだったなと記憶しています。

――当時から舞台度胸はあったんですか?

咲妃 鮮明な記憶はないのですが、緊張よりも楽しいが勝っていましたし、後になって「人前で歌を歌ったり踊ったりが、物怖じせずにできる子だったよ」と母に聞きました。その度胸は宝塚音楽学校の受験のときにも遺憾なく発揮され、それがなければ私は音楽学校の門をくぐれていなかったでしょうね。もちろん緊張はしていましたが、知らない世界に飛び込んでいくことが楽しかったんです。

――中高一貫校に通っていて、合唱部に所属していたそうですね。

咲妃 『美女と野獣』を拝見して以来、おうちでも移動中の車内でもずっと歌っていたので、迷わず合唱部に入りました。アカペラで歌うミサ曲がたくさんあって、そのときに声と声が共鳴し合う調和の美しさに喜びを感じていました。合唱部の経験があったからこそ、「今はこのメロディーが主で聞こえるべき」とか、「ここはサポートに回る歌声を出す役割だ」とかをパッと判断できるようになりましたし、今でも活かすことができています。

――宝塚音楽学校を受験したきっかけを教えてください。

咲妃 高校2年生のときに受験したんですが、自分の意志ではなかったんです。舞台の世界に憧れを抱いていた時期もありましたが、進学校に通っていた関係上、お勉強に力を注いでいたので、芸能の道に進むという考えは遠のいていました。かと言って勉強に身が入るでもなく、将来どうしたらいいのか迷っていたときに、父が「大学受験の前に受験を経験しなさい」と宝塚音楽学校の受験を勧めてくれたんです。

――お父様は宝塚が好きだったんですか?

咲妃 全くです。だから合格したときに、父が動揺してしまって大変でした(笑)。母は、すぐに受け入れてくれましたけどね。

――宝塚歌劇団入団後の活躍は目覚ましく、2014年には雪組トップ娘役に就任しますが、いつ頃から退団を考えたのでしょうか。

咲妃 退団を意識したのはトップ娘役に就任が決まった瞬間です。ゴールが来ることが決まってしまったんだなと実感しました。だからこそ退団までの残り僅かな時間、タカラジェンヌ人生を大事に過ごそうと改めて思いました。トップ娘役になって3年弱での退団は、就任期間としては短いほうだったと思いますが、本当に充実した日々でした。

――退団後の不安はなかったのでしょうか。

咲妃 もちろん不安もありましたし、手探り状態ではあったのですが、演じるお仕事は退団後も続けたいという強い気持ちがあったので、その気持ちだけを頼りに、ここまで歩んできました。

――どんなときにお仕事のやりがいを感じますか。

咲妃 舞台をご覧になってくださるお客様を間近に感じることができるカーテンコールです。お芝居の最中は作品の中に没入しているのですが、咲妃みゆとして、「ありがとうございました」とお伝えできる瞬間が好きです。

Information

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ
COCOON PRODUCTION 2023『少女都市からの呼び声』

東京公演:2023年7月9日(日) ~ 2023年8月6日(日) 会場:THEATER MILANO-Za
大阪公演:2023年8月15日(火) ~ 2023年8月22日(火) 会場:東大阪市文化創造館 Dream House大ホール

作:唐十郎
演出:金守珍
出演:安田章大 咲妃みゆ 三宅弘城 桑原裕子 小野ゆり子 細川岳 金守珍 肥後克広 六平直政 風間杜夫 他

手術台に寝かされている男―田口(安田章大)。親友の有沢と、その婚約者のビンコが付き添っている。看護婦は有沢に、田口の体の一部を取り除くか迫る。その体の一部とは、誰の物ともわからぬ髪の毛。有沢が看護婦からの問いに窮する中、田口は、妹を探しに夢の世界へと旅に出た。田口は妹である少女―雪子(咲妃みゆ)と再会を果たすも、彼女は右手の指を3本も失ったばかりか、フィアンセであるフランケ醜態博士(三宅弘城)によって体をガラスに変える手術を施されていた。隙を見て雪子を連れ出そうとする田口だが、指を手に入れるまで出られないと雪子は言う。田口は、己の2本の指を切り落とし雪子に渡したが、フランケ醜態博士に阻まれ銃で撃たれる。そこで気づく。最後に切るはずだった指は、己の体のことだったと。そして、雪子は有沢の前に姿を現し――。

公式サイト

咲妃みゆ

1991年3月16日生まれ。宮崎県出身。2010年、宝塚歌劇団に入団、2014年、雪組トップ娘役に就任。2017年に退団後、ミュージカルや映像作品で活躍中。2021年、第46回菊田一夫演劇賞を受賞。NHK Eテレ「ミュージカルTV」のゲストMCも務めた。近年の主な出演作は、【舞台】『マチルダ』(23)、『千と千尋の神隠し』(22)、『ニュージーズ』『衛生~リズム&バキューム~』『ゴースト』(21)、『NINE』『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』(20)、【映画】『アイの歌声を聴かせて』劇中アニメ挿入歌(21)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)、【ドラマ】『警視庁強行犯係 樋口顕 Season2』(22・TX)、『津田梅子〜お札になった留学生〜』(22・EX)、『まだ結婚できない男』(19・KTV)など。

PHOTOGRAPHER:TOMO TAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI,HAIR&MAKE:KAZUMI HONNA,STYLIST:YUKIE KUNIMOTO