キラキラ映画ではなく、大人も楽しめる青春映画にしたかった

――映画『君は放課後インソムニア』の撮影は、原作の漫画と同じく石川県七尾市で行ったそうですが、自然豊かな風景に登場人物が見事に溶け込んでいて美しかったです。

池田千尋(以下、池田) 普段、映画やドラマの撮影をしていると、どうしても東京近郊の見知った景色や、ロケーションに選ばれやすい場所になってしまうことが多いので、新しい場所で撮れること自体が新鮮で。何でもない景色の中に、はっ!とするロケ地を発見するのが楽しいんですよね。

――野外でも室内でも光の使い方が素晴らしかったです。

池田 夜眠れない子たちの話なので、しっかりと夜から夜明けのグラデーションを狙っていこうというで、カメラマンの花村(也寸志)氏と照明の高井(大樹)氏がこだわってくれたんです。特に印象的だったのが夜明けのファーストシーンで。石川県って土地柄、曇りが多いんですよ。何度も何度もロケハンに行って、どの時間に、どのカットを狙うか検証したんですが、ロケハンでは一度も日の出を見ることができなかった。ところが撮影初日、そのシーンの撮影に行ったら、初めて見事な日の出が出てくれて、すごく恵まれました。

――自然ばかりは、どうにもならないですからね。

池田 だから状況に応じて、どうフレキシブルに動けるかが大事で。そういう意味では、ちょうどいいチームの大きさでした。状況に合わせて柔軟に対応し、より良くするためにシンプルに動くことができたので、学校に降る大雨の実景などもそのおかげで撮影できました。

――撮影期間はどれぐらいだったんですか?

池田 1ヶ月弱です。その間、スタッフもキャストも一緒に合宿して、七尾に暮らしながら撮影をしたので、チーム全体でまとまって進んでいくことができました。

――主人公の中見丸太(なかみ・がんた)と曲伊咲(まがり・いさき)が出会い、関係性を深めていく学校の天文台のシーンも、非常に光の使い方が繊細でした。

池田 『君は放課後インソムニア』は青春映画だけど、単純なキラキラ映画とは違うんだという狙いの元、照明の高井氏が自然光を生かしつつ、なじむ照明を考えてくれました。たとえば虹色のライトや反射をさりげなくポイントポイントに差し込んだり、夜明けの窓外は日中の光をそのまま利用して窓に貼ったブルーフィルムの濃度を変えながら表現したり。ことさらに照明を作って当てるのではなく、風景の中に馴染ませてくれたことが、すごく上手くいきました。

――「キラキラ映画とは違う」というのは、どういう意図があったのでしょうか。

池田 本来、青春ってキラキラしているだけじゃないものって思っていて。私自身、青春時代に苦い記憶がたくさんあるんです。そういう面は原作の中にも描かれていますが、自分という存在の不確かさに向き合わされるのが10代後半だと思うんです。苦さがあると同時に、それを強い力で乗り越えて前に進むパワーも持っている、その両方があっての青春なんですよね。青春はキラキラして楽しいだけじゃない、だから今青春を送っている方も、これから送る方も、青春が過去になった方も、「青春ってこの感じだ」と感じてもらえるように意識しました。不眠症というものを抱えた二人が前に前に前進して、閉じていた自分の窓を一生懸命開き進んだ先にあるもの、見えるものの本当のきらめきを見て欲しい。どのフェーズにいる方でも、「もう一回、あのときの力を出してみよう」って思えるんじゃないかなと。そういう大人も楽しめる青春映画にしたかったんです。