原作にあるコアな部分を掴み取って抽出すれば、多少は形を変えても大丈夫

――スタッフさんは、よく一緒にやられている方々なんですか?

池田 仕事のご縁に加えて、それ以外のご縁で繋がりのあった方も多くいました。カメラマンの花村氏、照明の高井氏、録音の髙田(伸也)氏は、関係性として面白くて、私が大学時代に自主映画を撮っていた頃からの知り合いなんです。自主映画でご一緒したことはありましたけど、商業映画でお仕事をするのは初めてで。今回のチームの特徴として、同年代が多かったんですよ。私と同じ年の方も3人いてこんなことは初めてでした。私の同年代は、いろんなことを学び積み重ねてきて、よしこれからだというパワーもある。今回、いいタイミングで会えたなと思いましたし、今後またこのチームで一緒に仕事をしたいですね。

――お仕事は初めての方が多くても、同世代は共通言語があるから伝わりやすい場面も多そうですね。

池田 同時代性は大きいですね。好きな映画や見てきた映画が似ていたりするので、言葉で説明し過ぎなくても伝わるんです。あの映画のあのシーンの感じ、であーと伝わる。人との距離感や世界への感じ方も差異はあれど互いに通じるものを持っている。この感覚は美術部や演出部にもあって、それぞれのグラデーションを重ねながら、各自が塩梅を見つけながらやってくというのは、とても面白かったです。

――池田監督は度々、漫画が原作の作品を撮られていますが、どういう意識で臨んでいますか?

池田 いつも思うのは、原作者の方が生み出したもの、作り出したものをお預かりするという立場ですが、原作をそのまま映像化しても意味がないということ。原作にあるコアな部分を掴み取って抽出すれば、多少は形を変えても大丈夫だと思っていて。今回の原作は今も連載中で巻数も多く、ささやかな日常を丁寧に紡いでいくエピソードが並んでいます。これを映画にするにはドラマの軸を立て直さないと、2時間弱の中には収まらない。だから、この映画なりの軸を探し出して、そこに向けて再構築することを深く考えました。

――原作に登場する景色がたくさん出てきますが、映像に落とし込む苦労も多かったのではないでしょうか。

池田 仰る通りで、原作は七尾市に実際ある場所をそのまま描いていたりするので、まずはロケーションでどこまでできるかを検討しました。原作の世界を単純に三次元にする訳ではないんですけど、なるべくロケーションの部分は原作に合わせたかったので、ベースのところはこだわりましたね。原作では作者のオジロマコト先生が絵を描くことで漫画の中に落とし込まれていくんですけど、映画の場合、実際にその場所に行って、お借りできるかどうか交渉するところから始まります。そこはスタッフの皆さんも頑張ってくださりましたし、七尾市の皆さんも温かく受け入れてくださって、その双方があって実現しました。たとえば夜のバス停で雨が降るシーンも、現実に可能かどうかから検討が必要でした。あの場所で雨降らしのナイターシーンを撮るためには道を封鎖して、プールを持ってくる必要がある。このシーンに限らず、何度もロケーションについてはスタッフと話し合って、本当にできるのか検討するのと同時に、そこまでしてやるべきかについても考えました。バス停のシーンに関しては、あの場所であることに意味がある。だとしたら、それはやろうということで、スタッフの皆さんが七尾市にかけあってくれて実現しました。

――俳優さんのキャラクターも、原作に忠実な部分が多かったですよね。

池田 キャラクター作りも忠実に合わせる必要はないと思うんですけど、見た目にも必然性があって。カニ(蟹川モトコ/演:永瀬莉子)がツインテールをしていたり、穴水(かなみ/演:安斉星来)がショートで日に焼けていたり、そこに私はキャラクターとしての説得力を感じていたので、そこはちゃんとやろうと。穴水役の安斉星来ちゃんは色白だから、毎回日焼けした肌にするのは大変だったと思うんですけど、そこは繊細に、嘘にならないように、原作の中にあるエッセンスを大切にしました。