面白いボールを投げる森七菜に対して、奥平大兼はキャッチャーとして生身で反応していた
――曲伊咲を演じた森七菜さんの印象をお聞かせください。
池田 本作に出ていただく前から思っていましたが、見ているだけで楽しくなる彩り豊かな役者さんです。私は予想を超えて様々な表情や動きを見せてくれる人に対して、“跳ねる”って表現を使うんですけど、ここまで跳ねる役者さんは初めてかもしれない。それぐらい、どんどんはみ出していくんです。原作がある。脚本の上に書かれたこともある。本人もそれに対しての意識はあるんですけど、表情や動きによって、鮮やかに彩りを変化させていくんです。次は何を見せてくれるのかなって毎回わくわくしていましたね。
――予想もしていない表情や動きを見せるということでしょうか。
池田 それもありますし、逆に私がイメージしたそのままの姿もパーンって見せてくれるんですよ。それはそれですごいことで、イメージのその先までも見せてくれるんですよね。そんな森七菜ちゃんに周りも反応して、また芝居が膨らんでいくのが面白いんです。「こんなボールを投げるんだ!」って驚くようなボールを投げるから、受け止める側も「私はこう芝居します」なんて落ち着いていられない訳ですよ。生の反応が生まれてくる、常に相乗効果が生まれる現場でした。
――中見丸太を演じた奥平大兼さんはいかがでしょうか。
池田 奥平くんと最初に会ったときに、「こんなに普通の男の子なんだ」っていう意外性があって。というのも彼が出演した映画『MOTHER マザー』(20)のインパクトが強くて、ちょっと影のある役柄のイメージがあったんですけど、いい意味で普通の感性を持っているなと。二人で話したときに、「普通をお芝居でやるのは難しいよね」って言ったら、本人もその意識があって。でも今回は、あえて普通をやろうよという話をして撮影に入ったんです。奥平くんはいつも生身でその場に飛び込んでくる、あんなに丸裸でカメラの前に立てるのは才能で、いつもすごいなと思って見ていました。本人もカットをかけた後に、よく「僕、今何してました?」「どう言いましたっけ?」みたいな状態になったんですけど、意図していないことのすごさですよね。すごく面白いボールを投げる森七菜ちゃんに対して、生身で反応できる奥平くんがキャッチャーとしている状態だったので、毎回二人の芝居は「こんなことになるのね!」っていうワクワクがありました。
――現場でのお二人は、どんな感じだったんですか?
池田 二人とも本当に現場が好きなんです。テストをして、本番に向けてセッティングをする間、控え室に戻られる役者さんが多いんですけど、ずっと二人は現場にいて、スタッフとも話しているんです。それって実は大切なことで、「この子はこういう顔するんだ」「こういう話をするんだ」と知れば知るほどスタッフとも距離が近くなるし、二人も現場の空気に馴染んでいくから、それが画にも現れていくんですよね。
――ちなみに『君は放課後インソムニア』の原作に監督自身、共感する部分はありましたか。
池田 初めて読んだときに、「これって私が高校時代に感じていたやつだ」という共感がありました。世界から自分がはぐれてしまって、異物なんじゃないかという感覚。それって実は世界に対して自分が扉を閉じていただけなんですよね。とはいえ、世界に対して扉を開くって、とても勇気のいることで。でも丸太と伊咲は出会って、お互いに気持ちを伝え合い、影響し合うことで、扉を開くことができた。私の場合は、映画を作ることが世界に繋がる扉になりました。
――世界に繋がる扉を開いて、今ではコンスタントに映画とドラマを撮られています。
池田 大変な時期、苦労した時期もあったんですけど、なぜ諦めなかったかというと、私には他に何もないから、撮り続けたいという一心だったんですよね。今でこそお仕事をたくさんいただけるようになってきましたけど、まだまだ道の途中です。生きている限り、映画を撮り続けていられる人間でありたいと思っているので、そのためには、どう進んでいったらいいんだろうといつも考えています。
Information
『君は放課後インソムニア』
全国公開中!
出演:森七菜、奥平大兼
桜井ユキ、萩原みのり、上村海成、安⻫星来、永瀬莉子、川﨑帆々花
工藤遥、⻫藤陽一郎、田畑智子、でんでん、MEGUMI、萩原聖人
原作:オジロマコト「君は放課後インソムニア」(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)
監督:池田千尋
脚本:髙橋泉 池田千尋
主題歌:TOMOO「夜明けの君へ」 (ポニーキャニオン/IRORI Records)
企画・制作プロダクション:UNITED PRODUCTIONS
製作:映画「君ソム」製作委員会
配給:ポニーキャニオン
©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会
石川県七尾市に住む高校一年生・中見丸太は、不眠症のことを父親の陸に相談することもできず、ひとり憂鬱で孤独な日々を送っていた。そんなある日丸太は、学校で使われていない天文台の中で、偶然にも同じ悩みを持つクラスメートの曲伊咲と出会い、その秘密を共有することになる。天文台は、不眠症に悩む二人にとっての心の平穏を保てる大切な場所となっていたが、ひょんなことから勝手に天文台を使っていたことがバレてしまう。だが天文台を諦めきれない二人は、その天文台を正式に使用するために、天文部顧問の倉敷先生、天文部OGの白丸先輩、そしてクラスメートたちの協力のもと、休部となっている天文部の復活を決意するが――。
PHOTOGRAPHER:TOMOTAMURA,INTERVIEWER:TAKAHIRO IGUCHI