川平慈英さんは日本のショーのレベルを上げてくださった立役者

――『カラフル』の音楽で特に大切にしたことは何でしょうか。

小林 重々しくならないことと、濁らないことです。未就学児童が入場できる日もあるのですが、そうすると0歳から観劇できる訳で、やっぱり楽しい曲がないといけません。また、若い人たちの言葉を代弁するときに、清らかで純粋な気持ちを表現したい。自殺した男の子の話だけど過剰な悲劇性を持たないようにしたいなと思って、美しく、しかし暗くならない、ということを作曲家の大嵜慶子さんにお願いしました。

――メインキャストの二人の印象をお聞きします。まずは<ぼく>を演じる鈴木福さんについて。

小林 お会いしたのは今回が初めてなんですが、まだ子どもだった彼が出ている舞台を観ていて。だから、「福くん」と呼ぶのが躊躇われるぐらい立派な大人になったなというのが第一印象でした。ご挨拶したときに感じたのは、幼き頃から大人にまみれて芸能界で生きていらっしゃるのに、とてもまっすぐな方で。気持ちと言葉が一致していて、正直さと誠実さが感じられる話し方をされるんです。福くんに会ったあと、「どうやったら、あんなに素敵な息子さんを育てることができるのだろう。ぜひ福くんのお母さんに聞いてみたい」と半分冗談半分本気で他のスタッフに話したほどです。

――<ぼく>のガイド役を担う天使を演じる川平慈英さんはいかがでしょうか。

小林 川平さんとご一緒するのも今回が初めてなんですが、私にとって憧れのエンターテイナーで、ショーのオールラウンダーというイメージ。『Shoes On!(シューズ・オン!)』シリーズは何度も観ていますし、三谷幸喜さんが作・演出した『ショーガール』など、今まで色々観させていただきました。舞台以外ですと、うちの子が生まれた頃に、『コレナンデ商会』(Eテレ)という慈英さん主演の子供向けの番組が始まって、ほぼ毎日観ていました。慈英さんは、一人で歌って踊って、口笛を吹いて、ハーモニカを吹いて、タップまで踏んで、英語の歌も歌って、芝居もして、どれもものすごいクオリティだったんです。なんでも一流のエンターテイメントにしちゃう……すごい方。『カラフル』を読んだときから、この役は慈英さん以外考えられないと思ってオファーさせていただいたら、引き受けていただいて、ご一緒してみたいという夢が叶いました。

――川平さんは日本のミュージカルを長きにわたって牽引している方です。

小林 何十年も前からブロードウェイの風を吹かせるようなショーを日本でやってくださっていて。その頃はレビュー、ショー、バラエティーショーなどをオールラウンドに演じられる方は本当に少なくて。その草分け的な存在であり、日本のショーのレベルを上げてくださった立役者だと思います。どんな歌でもお歌いになるし、日本のフレッド・アステア、日本のジーン・ケリーと言っていい立ち位置を、ずっと保っておられる方ですよね。

――公演に向けての意気込みをお聞かせください。

小林 世田谷パブリックシアターさんがミュージカルを製作するのは今回が初めてとお聞きしましたので、オリジナルのミュージカルを上手くランディングできるようにしたいですし、『カラフル』がお客様にとって、他人事ではなく、自分たちの物語でもあると感じてほしいんです。パッと劇場に行って、「分かる分かる」「この人はこう考えてるのか」「私も背中を押されたな」などと感じていただけるとうれしいので、かっこつけずに、等身大の感じ方をしていただけるように作っていくつもりです。ミュージカルだからと言って敷居を高く思わずに、気楽に見ていただけるところを目指していきたいですね。