リスペクトする北村諒くんから、たくさんの刺激をもらっている

――『鉄鼠の檻』のオファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

横田龍儀(以下、横田) まず、もう一人のWキャストが大先輩の北村諒くんということで緊張しました。諒くんは1作目の『魍魎の匣』に引き続いての出演なので、前作を観た方からすると諒くん演じる榎木津礼二郎の印象が強いだろうなという不安もありました。でも、せっかくやるんだったら諒くんとは違うテイストの榎木津を演じられたらいいなと。原作ファンの方もたくさんいらっしゃると思うので、これはこれで榎木津の形だなと感じてもらえるように演じようと思い、引き受けさせていただきました。

――台本を読んだ印象はいかがでしたか。

横田 まず小説とコミック版を読んだ上で、台本を読ませていただいたんですが、原作通りやってしまうと、とんでもなく長時間の舞台になってしまいます。それを上手いことまとめて脚本にされていたので、すごいなと思いましたし、改めて原作の持つ力も感じました。京極夏彦先生の小説は圧倒的な知識量で、難しい言葉も多いんですが、すーっと入ってくるんですよね。その良さは脚本にもありましたし、その上で人間関係の意外性や人間の汚い部分など、自分の人生に置き換えて読むことができました。今回は“禅”のお話しなので、人間の奥深くにある欲の部分に触れることのできる作品だなと。

――『鉄鼠の檻』の舞台は戦後間もない時代ですが、役作りで意識していることはありますか。

横田 昭和28年のお話ということで、僕は平成生まれですから、分からないことばかり。僕が日常的に使っている言葉や触れているものも当時はなかったものです。それに戦後と令和の今では、日本人の心持ちも全く違うので、できるかぎり当時のことを調べました。あと最初の稽古のときに、僕は台本に書かれていないことを、いろいろアドリブでやってしまったんです(笑)。そしたら演出の板垣恭一さんが、「面白いね」と採用してくださって。確かに榎木津は次元を超えたようなキャラクターなので、何をやっても許してもらえる懐の深さがあるんですが、アドリブをするにしても原作が好きで舞台を観に来るお客さんが違和感を抱かない程度に、時代背景にあった発言やボケをしていけたらなと思っています。

――佇まいや立ち居振る舞いはいかがですか。

横田 榎木津は威厳があるので、立ち方、歩き方で偉そうな感じを出さないといけないなと思っています。あと雪道を歩くシーンもあるので、足元に雪があるのをイメージしたり、どれぐらいの寒さなのかという空気感を考えたり、室内に入ったときの表現の違いなども意識して稽古しています。

――北村さんのお芝居から影響を受ける部分もありますか。

横田 僕は以前から諒くんをリスペクトしています。稽古場で諒くんの芝居を見ていると、前作に引き続いて榎木津を演じるということもあって、佇まいや歩き方などに品や威厳があって、すごく勉強になる部分があります。また自分だったらこうやるだろうなというところとは逆のところに諒くんが行くという意外性もあります。それを見た上で、「ここは使えるな」というところは使ってみたり、逆に諒くんはこういう演じ方だから、僕はこういう演じ方をしてみようとアプローチを変えてみたりもします。共演者の方々が、僕と諒くんの榎木津は全然違うと言ってくれているので、もちろん影響も受けていますが、自分なりの榎木津を演じられているのかなと思います。