ここまで計算なしに本音が詰まった曲は初めて

──単刀直入に伺います。なぜ“第2章スタート”としているのか?この背景から教えていただけますか?

雫 ポルカドットスティングレイは今年で結成して9年、メジャーデビューして7年くらいになるのですが、ずっと同じレコード会社のチームでやってきたんです。だけど現実的な話として、人数がまったく足りていなかったんですよね。中でも私の業務内容は特に広かったものですから、タスクがパンクすることが多くなっていまして。特にこの2年くらいはその傾向が顕著で、この仕事をやってるのに曲を作る時間すらなくなっていたんです。リリースの数もめちゃ減っていたし、実写のMVも2年くらい出せていなくて……。活動が停滞しているというか、相当しょんぼりした状況でした。

──“しょんぼり”というのは、ファンがですか?

雫 それもあるけど、私自身の気持ちとしても。「もうこのまま活動していくのは無理かもな」と思い詰めるくらいでした。私が弱音を吐くなんて相当なことなんですよ。それでもファンを心配させたくはないから、最低限の活動は止めないようにしていたんですけどね。でも、それが精一杯でした。

──なるほど。曲作りでスランプに陥るといったような話ではなかったんですね。

雫 曲作りでスランプなんて今までなったことないんです。むしろ「頼むから曲を書かせてくれよ」って感じでした。ファンの人から「そろそろ新曲をお待ちしています」みたいなDMが届くことも結構あるんです。私としても「いやいや、こっちだって出したいよ!MVだって今すぐ作りたいよ!」って言いたかったです。「でも、それができないんだよ。本当にごめん」とずっと思っていて……。すごく、それがつらかったです。

──でも、それが今回の新体制になって解決したということですか。

雫 はい、みんなが支えてくれるので。「ここからは心機一転、ガンガン曲を書いてやるよ」って感じですね。実際、新しい曲もどんどんできていますし。今はバンドやっていて手応えがめちゃくちゃあるんですよ。ここ数年、クリエイティブな部分が少なかった反動で、今後はリリースもガンガン増えるはずです。ようやく健康的な体制が整ったので、曲も映像もいくらでも作れちゃう。案件だっていくらでも来いと思っています。

──ポルカはタイアップも多いバンドとして知られていますからね。

雫 クライアントさんから案件をいただくこと自体は、もう本当にめちゃくちゃ感謝しているんですよ。私にとって、すごくうれしいことなので。だけどこれまでは「気づいたら締め切りの1週間前」みたいなことも多くて、もちろんその中で自分たちの120%は出しているんだけど、心身ともに負担がかかるというのはたしかでしたね。

──雫さんの場合、作詞・作曲は言うに及ばず、ジャケットのデザインからMV撮影のコンセプトまですべてを仕切っていた印象があるんです。負担が一極集中したことでパンクしてしまったのかなと、話を伺っていて感じたのですが。

雫 クリエイティブな面に関してはその通りなんですけど、問題はそれ以外のことも自分の負担になっていたんですよ。一例を挙げると、まずライブのセトリ(セットリスト)を決めるじゃないですか。そのあと、それをスプレッドシートにまとめて、時間の計算をして、関係者に展開する資料にする……みたいな細かい作業も全部私1人でやっていたんです。

──そこまで!?よくライブ会場の楽屋に貼られている進行表みたいなやつですよね。余計なお世話ですが、マネージャーとかに任せるわけにはいかなかったんですか?

雫 とにかくスタッフの数が少なすぎて……。私も私で「自分がやるから、みんなついてこいよ」みたいな調子で限界までやっていましたからね。性格的に「いや、もう無理」とか言えないんです。今思えば私が無理してやらなくてもよかったようなこと……たとえば細かい業務上のメールの返事を返すといったようなことも、「私がやるしかない」と勝手に気負っていたんですよ。

──それを根性論だけで乗り越えようとしても破綻してしまうでしょうね。

雫 なんとかギリギリで回ってはいたので、ガチでヤバいって周りも気づかなかったと思うんです。レーベル自体は大手ですし。私も周りに危機感を与えないように必死で頑張っていたんですけど、その馬車馬さ加減が逆に悪循環になっていたのかもしれないです。それは反省すべき点でもあるんですけど。

──そして、新たな体制の中で生み出された1発目の作品が「JO-DEKI」ということになります。

雫 自分の気持ちをストレートに書いた曲というのは、ものすごく久しぶりなんです。私は基本的に自分のことを曲にしないタイプなので。だけど今回はお客さんのニーズがどうだとかは関係なく、自分の愚痴だけを徹底して書きました。「JO-DEKI」の歌詞を書いたのは数カ月前のことなんですけど、頭がおかしくなるくらいフラストレーションが溜まっていて、その気持ちにストッパーを掛けることも一切なく、赤裸々に打ち出してみました。

──これまでポルカは「ニーズに応える音楽」を追求してきました。そういう意味では非常に新鮮に響くかもしれません。

雫 今の正常な状態のメンタリティでこの曲を作ろうとしたら、たぶん恥ずかしくて無理だったんじゃないですかね。なりふり構っていられないモードだったからこそ、生み出された曲。100%私が書きたいように書いた曲だし、ここまで計算もなしに本音が詰まった曲というのは初めてですね。

──曲調自体は非常にポップで口当たりがいい印象ですが。

雫 そう。サウンド自体は、どキャッチーなんですよ。「こんなの、みんな大好きでしょ?」っていうストレートな曲調。最近はキーボードとか打ち込みとかを導入してポップにしていた部分があったけど、今回はメンバー4人の音だけでポップに仕上げたかったんですね。ある意味、原点回帰的な要素も強いのかもしれない。最初に曲をメンバーに渡した時点で、「今回の雫さんはガチ度がすごいな」「これは融通がきかなそうだ」って警戒された感もありましたけど(笑)。